imotaさんの「佐倉ユウナの上京」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

鐘の音は授業終了を告げ、日は沈み、北極星と大学の時計塔が輝く。同い年なのに後輩となった幼馴染。最早自分の為には頑張れない、変わったようで変わらない自分。綺麗事じゃない等身大の青春は甘酸っぱ、いや、男臭いとんこつラーメンの香りがたまらんばい!
我々は、二十歳を迎えることで成人として認められるわけだが、はたして本当に大人になったと言えるのだろうか。
特に、今は大学全入時代と呼ばれ、モラトリアムを満喫しながら二十歳の一年は流れていく。
だが、そうした楽しい日々を謳歌しながらも、もう一人の自分が「本当にこれでいいのか?」と囁いてくる。
大学はその後の人生を決める大切な時期、いや、大学に入る前から大人への準備は始まっているのだ。

しかし、人はそう簡単に、さなぎが脱皮するように大人へと変わるわけではない。
今となっては馬鹿馬鹿しいかもしれない、子供の頃に目を輝かせて語った夢を、簡単に捨てられはしないのだ。
故郷で見た星空の輝きが、今や都会の街の光に覆われているとしても、消え去ったわけではないように。

これは、そんな彼と彼女、凸凹な幼馴染たちの、一年間の物語だ。

私が超水道というサークルと出会ったのは、『ボツネタ通りのキミとボク』のとても楽しげなPVだった。
エロという制約のないノベルゲームの世界は自由だったが、その中でもとびきり自由な空気をまとった作品だった。
「こちら側」に視線を向けてくるメタ作品の中でも、とびきり愛情のこもった作品であり、
学生サークルだから趣味程度だろう、という勝手な想像は良い意味で裏切られた。

ノベルスフィアという、無料でデジタルコンテンツが読めるという場所が、彼らの活動拠点だった。
そこからスマートフォンのアプリに進出し、一般的な同人ノベルゲームとは違う道のりを歩んでいた。
本編はフリーで、即売会でグッズ販売をしているが、どうにも商売っ気は感じない彼らだった。

その彼らが、サークル結成五周年の節目に送り出したのが本作である。

春夏秋冬の季節ごとの連作で、つい先日に完結した本作は、いわゆる美少女ゲームから遠く離れていた。
純朴な味わいがある山本すずめ氏の絵柄にしてもそうだが、今風の「萌え」に囚われない姿勢が鮮明になった。
だからって、モブおっさん教授に二枚もスチルを使うのはどうかと思うよ!
サブキャラのサブと男二人のお出かけスチルとか、悪友緒方と見つめ合ったりとか、全体に男臭くて最高ばい!

そうなのだ。タイトルに反して、幼馴染のユウナの出番は決して多くはないのだ。
彼女は浪人生であり、予備校と寮を往復して受験勉強に励む毎日で、会うのは月二回の「息抜き」だけ。
主人公の鷹司も真面目な堅物野郎で、お色気イベントの「お」の字すら縁がない。

こんな物語が面白いのかというと、それが実に面白い。

正直最初は、登場人物が動き始める前については、一般小説を読み始めた時と同様の噛み応えの硬さを感じた。
「博多弁丸出しのユウナはかわいいなあ」以上の、心を揺さぶるものはなかった。

それが「夏」になり、彼らの交友関係に広がりが、心情に変化が起こり、いよいよエンジンが温まりはじめる。
本編に何度となく出てくる地元のとんこつラーメンが、ちょうど自分の胃袋に収まっていくように。

そして「秋」「冬」と、きれいな起承転結を見せる構成には魅せられ、感服した。
いや、実際は最後までハラハラドキドキで、今になって落ち着いたというのが正確なところだけれども。
二人の思い出話が、受験戦争の佳境で一気に収束し、共に二度目の春を迎えた時の安堵感たるや・・・

構成でいうと、将来の仕事としての経済学=公認会計士と、ずっと好きだった天文学=天体観測が、
それぞれの立場に立つ、公認会計士である父親、同級生の緒方、バイト仲間のサブとの関わりで揺れ動き、
そして何より、息抜き以外でユウナを応援したいと、現在の進路への自問自答が繰り返される。

星空への思いは、普段の淡白な主人公とはうって変わった情熱を見せ、
高校時代に先輩後輩として、二人だけの天文同好会で活動した過去、現在の東京の夜空、未来へと繋がる言葉、
と様々な形で、物語に深く関わってくる。

モチーフとしては、各章のタイトル音楽で奏でられる、授業の終わりを告げるチャイムの変奏曲も印象深い。
いわゆる「キーンコーンカーンコーン」の音楽だ。
それらを中心に情感豊かなピアノ曲が、ここぞという場面で流れるのが心にくい。
ボツネタ通りの時も思ったが、いい音屋さんを見つけてくるよなぁ。またサントラ買わんとな!

演出面に目を向けると、縦書きに立ち絵なしの一本道と、限りなくデジタルノベルになっており、
時おり幕間でユウナの秘密の日記が挟まれ、心の機微に疎い鷹司殿の視点を補完する構成になっている。

いや、鷹司殿も心の機微に疎いわけではない。
ただ、彼は「俺はもう『自分の為』には頑張れないんだ」という生き方が染み付いてしまったのだ。
それが彼自身を苦しめ、周囲との軋轢を生んでしまうのだけれども。



さて、作品の大枠は示せたと思う。
というわけで主観垂れ流しネタバレ感想の時間ばい!

とはいえ、色々言いたいことがあって、どこから語れば良いのやら。
まあタカちゃん、楽にすればいいっちゃ。物語の順に従って、桜道をのんびり歩けばよかとよ。
てな感じに話しかけてくるユウナは本当にかわいいなあ!

でも萌えというよりはもっと人間臭くて、「先輩後輩」とか妙なとこで律儀で、元気なのに病弱で、
強がって独りで苦しみを抱え込んで、「運が悪かった」と開き直る事もできず、最後まで「好き」とは告白せず、
代わりに寝た振りしてタカちゃんから言質を取って「んふふ」と笑う、そんな女の子。

主人公が言うように、どこか危なっかしくて、ついつい気になってしまう。
この距離感が実に絶妙で、高校での「あの日」以外は、暗黙の了解なのか全然そういう雰囲気にならない。
でも、ところどころでタカちゃんの気持ちを試すような言葉を、さらりと言う関係。

「最後の息抜き」では、「共に苦労する楽しさ」という星言葉と一緒に、ようやく自撮りの写真を渡して、
ああもうお前らこのままチューしちゃえよ!と悶え転がってるおっさんを横目に、息抜き終了。

まったくもってプラトニックすぎるが、だからこそ素晴らしい。
独り苦しむ幼馴染を力づけたいと「――痛いの、痛いの、飛んでいけ――」と触れ合うくらいの距離感。

そこに至るまでの様々な葛藤が、ズシリと心に重くのしかかるからこそ、この寄り添う慰めが救いになる。
ラストチャンスを棒に振りそうなユウナ、壊れていく日記、それでも神頼みもできない彼女のため、
即席の神様になる鷹司の漢っぷり。そして、彼をここまで立ち直らせた、男たちの友情。

そうです、この堅物な咲間鷹司は、何故か色々な男にモテます。
この男、一見他人なんてどうでもよさそうな顔をしといて、その実自分よりも他人の心配ばかりする。
普段は理知的なのに、心の奥底には熱いものをしっかり持っていて、やる時はやる。

周りの男たちも、良い意味で第一印象とのギャップがある。

いかにもお調子者でサークル同期の緒方。仮面浪人を経て態度を改めた彼は、咲間の損な生き方を「勿体ない」と
様々なサポートをしてくれる。「咲間、俺と一緒に戦ってくれ」と川原で語り合うシーンには胸が熱くなった。
あれほど外堀を埋めたのに全て破綻した鷹司へも、一言だけ「運が悪かったんだよ」と流す優しさ。

サークル後輩でいつも恐縮している小山も、ビジネスコンテスト選考会の張り詰めた空気の中、
鷹司の味方になろうと震えながら挙手をする。そんな真っ直ぐに慕う後輩たちの期待を裏切る、強い自己嫌悪。

堅気とは思えぬ背格好で寡黙なサブ。ところが蓋を開けると陽気な同郷で、星の素晴らしさを分かる同士だった。
「他人の為」と進路を決めてしまう鷹司に対して、本気で怒るサブ。鷹司の凝り固まった外面を壊す一撃。

色々考えた末に転部受験を決心するも、その為には実家の両親、父親の許可を得なければならない。
「お前の人生だ。お前の好きにするといい」という言葉。期待も失望もない、ただ真っ直ぐな親の愛情。



こうして、各シーンを思い出すと、どれもこれも思い出深い。
日常の水増しがないから、文章の密度が濃い。実際以上に長く感じて疲れもしたが、とても充実した時間だった。
それぞれの目指すところは違うけど、皆本気で自分の人生と向き合っていた。

創作というのは星の輝きに似ていて、その数の多さに目がくらんでしまう。
星座という道しるべがないと、強い輝きの影で目立たない星の存在には、気がつかないかもしれない。
私は幸いにして、その存在を教えてもらった。だから次に伝えなければなるまい。

ただ、ひとつだけ注意を。
深夜にプレイして、とんこつラーメンが食べたくなっても知らんばい!

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