OYOYOさんの「催眠演舞」の感想

H関連の要素は良いけれど、少し物足りない。
『催眠遊戯』でヒットを飛ばしたスタッフィングの2作目。今回も「リアル系催眠」路線の作品だ。「リアル系催眠」というのはスタッフィングスタッフの用語で、明確に定義されているわけではないが、おおよその意味は「催眠の理屈や過程をきちんと説明し、説得力のある形でユーザーに提示する」というもの。目で見ただけで相手を催眠にかけたり、特殊な薬品を使ったり、キーワードを唱えるといった結果だけが優先的に描かれる魔法のような(ファンタジーな)催眠と区別して「リアル」ということなのだろう。

主人公・神楽一紗は日本舞踊の家元の家に生まれ、将来を嘱望された少年。ある一紗は、時自分の舞が観客を一種のトランス状態に導くことに気づいた彼は、自分流の舞を追究し始める。だがそのために、神楽流の「型」を壊したとして後継者の地位を失ってしまった。日々を無気力に過ごしていた一紗はしかし、浦河柳(前作の主人公)の操る「催眠術」を目の当たりにし、自分が目指していた「舞」を思い出す。柳に弟子入りした一紗は、理想の「舞」を完成させるために催眠の腕を磨いていくのだった。

メインヒロインは4人。茶道の家元の娘で、幼なじみにして一紗の憧れだった優しいお姉さん・明日香。一紗にかわって神楽流の跡取りとなる資格を得たものの権利を放り出して水泳を始めた、謎多き無口な従姉妹・香具耶。男っぽい口調に乱暴な性格で不良と恐れられているが、実は乙女全開の先輩・炎乃火。無邪気で明るい天然系……の割に妙に世慣れて計算高そうなギャル系同級生の美乃莉。Hシーンはその他、女教師陣や前作のヒロイン、モブキャラにも用意されている。

催眠ものということで、各ヒロインを思うがままに操れるのが醍醐味。一紗に対する敵意や陰謀めいた企みも、まるごと飲み込んで「支配」していく様子がねちっこく描かれ、Hシーンの満足度は非常に高い。特に秀逸なのは絶頂の描写で、催眠術によって心のリミッターをはずされたヒロインたちが限界を超えた快感の渦に叩き落とされ、我を失っていく様子がとてもエロい。

このあたりは前作、あるいはその前(同人ブランド#define)の流れを引き継いでいるところで、催眠を単なる肉体や心情の操作にとどめず、より積極的にHに組み込んでいる。丁寧な心理描写も相俟って、快感でぶっ壊れていくヒロインの説得力は、その辺の凌辱ゲーよりもずっと高い。

アヘ顔、卑語も下品にならないいやらしさを保っているし、さより氏のすっきりした絵柄も、催眠によって乱れた時の表情とのギャップが背徳感をかきたてて非常に良い味を出している。

また本作は、ヒロインとの心の交流にも焦点が当てられており、ちょっとしたラブロマンスものの気分も味わえる。別に催眠モノに必須の要素ではないだろうが、盛り上げるスパイスとしてストーリーを盛り上げているのは間違いない。個人的には、切なくも残酷な感じが出ている明日香のルートが一番楽しかった。

と、「いいところ」は多いのだが、催眠モノとして見た場合に物足りないと感じる点も少なからずある。その中で最も大きいのは、狂気が足りない、というところである。

だいたい、エロゲーにおいて催眠術が使えるようになるというのは、そのキャラは非モテ系と相場が決まっている。放っておいても誘蛾灯のように女を惹きつけるイケメンでモテモテのリア充が催眠術を使えるようになったところで、特段面白くもない。もちろんそういう例が無いわけではないが、そういう場合は何か、心に深い闇を抱えていることが多い。基本的に「他人の心を操る力」という能力は、そんな夢みたいな力でも無ければかなわない鬱屈した想いを抱えた「昏い」人間が欲するものだし、だからこそ悪魔も彼に力を与え給うのだろう。狂気とはそういう、催眠術師としての精神的資質のようなものを指しているつもりだ。

そんな狂気が迫力を醸し出す一方で、催眠という逸脱した力によって得られる結果は、催眠術の使い手が当初求めていたものとのズレていく。たとえばヒロインの「心」を手に入れようとしても、手に入れられるのは催眠によって自分が都合よく作り替えたものでしかない。その辺りから漂う達成感と哀愁が、催眠作品に厚みを与えるのだと言える。

ところが本作の主人公である一紗は、基本ハイスペックのイケメン。確かに鬱屈を抱えてはいるものの、それは「自分を高めたい」という比較的健全な想いでしかない。暴走して狂気に走るのかというとそれほど極端な感じも無いし、催眠の師である柳をして、女を自由に操りたいというより自分の「芸」を磨きたいというのを優先するところが良い、というようなことを言わしめている。

ぶっちゃけ前作の柳は、あれこれ取り繕ってみたところで芸を磨くより女を操ることに愉しみを覚えているタイプだったし、だからこそ彼の狂気には迫力があった。だが、一紗からは突き抜けた狂気を感じない。彼の目標は「芸」であって「女」ではない。そのことが最も顕になるのは香具耶ルート。私にはどうも、一紗の語る催眠への熱意が単なる手段に思えて仕方がなかった。そんな一紗だから柳の言うことに唯々諾々と従うし、肝心な「対決」になると敗北したりするのだ。「催眠」という精神支配を内容とする作品で、対象への支配欲が薄いというのはやはりちょっとまずい。

もっとも、あまり陰気な内容にしないほうが幅広い層には受けるのだろうし、たとえばの話、催眠モノをよりカジュアルにして広めようという作品なのだとしたら、その狙いはあたっているのかもしれない。別にそんな狙いなどなくても、数多くの催眠モノを手がけてきたスタッフだけに、いま言った程度のことは折込済みで作品を作っているようにも思う。

ただ、だとすれば私とこの作品では考えが合わないところがある。ストーリーとしては一貫しており破綻も無く、作品としての完成度に瑕をつけるものではないけれど、催眠術で他人を操ろうかという人間があまりに従順かつ覇気の無いことでは物足りない。現状でもまったく出ていないとは言わないにせよ、もっと露骨に、ドロドロとした彼の欲望を押し出して欲しかった。そうすればHシーンの偏執さも、単なるシチュエーションの違いを超えて、更に上昇していたのではないだろうか。

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