OYOYOさんの「百花繚乱エリクシル」の感想

花咲き乱れる春の季節を連想させる、優しく楽しいおとぎばなし。
「英雄譚というのが妥当かなぁ」と、本作を終えて、私はそんなふうに思った。

主人公・ブルームの職業は、巡察使。地方領主のお目付け役ということになっているが、実態は検事と警察をセットにしたような職で、要するに正義の味方である。そして、この物語は、その正義の味方が戦いに勝利し続けていく一代記のような構成になっている。

「戦い」と言っても、派手にドンパチやらかすわけではない。ブルームの戦う相手は、自分への無理解だったり、貧困を作り出す社会の制度だったり、自身の中の感情だったりというもの。つまり、描かれているのは政治や思想、あるいは社会的な戦いがメインである。「ジミー」というあだ名の通り、実に地味。

しかし、バッタバッタと敵をなぎ倒して勧善懲悪するばかりが英雄ではない。弱い者が救われ、正しい者が報われる世の中をつくるための具体的な方法を整え、その精神の高潔さとを伝えていく庶民の味方もまた、十分に立派なヒーローだ。

実際、「巡察使」というのは、中国・唐代に皇帝の命をうけて地方領主の監察をした役職名として実在した。そして李氏朝鮮時代に「巡察使」と同じような役割を果たした「暗行御史」は、民間伝承にたびたび登場する庶民のヒーローだったそうだ(昔、サンデーGXに『新暗行御史』という漫画が連載されていたが)。格差や貧困と戦いながら弱きを助ける「仁者」というのは、古来より、文官タイプのスタンダードな英雄像である。

ともあれそんなわけで、(左遷されたとはいえ)エリート官僚のブルーム君は、英雄の資質満点。時には迷ったり悩んだりしながらも、見事な手腕でミルトス村を救い、やがては帝国全土を救った彼は、やがて伝説となり、各地にさまざまな「ブルーム巡察使伝説」が生まれた……という感じなのではないだろうか。

本作のEDをすべて見ると、まるでこの作品が、各地に残るブルームの逸話を集めて、それをさまざまな角度から解釈を加えたものであるかのような印象を受けるのだ。

それは、たとえばこんな具合である。彼が生涯活躍して大陸にその名を轟かせたという伝承がある。そんな彼に寄り添った女性は二人だったとも三人だったとも言われているが、教会には民間伝承とはだいぶ異なる「史料」が遺されている。そして、時には「いつまでも英雄に活躍してほしい」という庶民の願望が形になったような物語が紡がれていたりもする――。

もちろんそんな伝承は、具体的に描かれてはいないのだけれど、物語の方から「原典」を逆に想像したくなるような、想像力を拡げる力が、本作にはある。サブタイトルは「Record of Myrtos Revival」(ミルトス復興の《記録》)。背景となる歴史記述(か口述)を想定することは、それほど無茶な飛躍ではないだろう。

本作では、とりたてて派手な事件が起きるわけではない。大スペクタクルやお涙頂戴は、期待しないほうが良いだろう。だが、弱きをたすけ、皆に幸福と安寧を届ける――そんな、いつの時代も楽しめる、庶民の夢と希望がつまった、わかり易さと爽快さがある。そんなお伽話のようなコンセプトが、本作の醍醐味だ。そういう、いわば古典的な娯楽ネタを、非常に丁寧に(読んだ側の想像をふくらませることができるようなクオリティで)仕上げてある部分が、個人的にはとても気に入っている。


ところで、前作『Dolphin Divers』の感想で私は、AXL作品が描こうとしている世界が、現実感の希薄なユートピアになっていると書いた。私の感想を覚えている方に向けて……などと考えると自意識過剰と言われるかもしれないけれど、似たような話なのにこっち(『エリクシル』)にツッコミを入れないのは一応故あってのことなので、蛇足覚悟で少し釈明しておきたい。

前作の内容で私が問題にしたかったのは、資本主義や効率主義に対する安易な裏返しとして「安らぎ」を賛美する態度である。都市と田舎との二項対立に、人も社会もはめ込んで白黒つける。そんな、80年代後半の単純な図式と紙一重の内容を何の留保もなく導入するのは、複雑化した現代の世情には無理があるのではないかという批判のつもりだった。

つまり私としては、AXLブランドの描く世界はより現代的であったほうが良いと思っていたのだが、本作でブルームがやったことは何かといえば、経済観念の薄い寒村の人びとの教育と、産業資本主義の論理とシステムの導入だ。

「村おこしアドベンチャー」の「村おこし」は、ゆるキャラづくりでもアニメの舞台化でもなく、地場産業の工業化と公共事業の誘致。前作の田舎賛美がバブル崩壊期の流行思想であるなら、本作の底を流れる価値観は、「経済的に豊かになることが幸せと結びつく」という、バブル以前のそれである。時代がひと昔どころか、ふた昔以上前に戻ってしまった。

表面だけを(悪意を持って)見るなら、単に古めかしい思想を持ちだしてきて飾りつけた、子供だましの物語と言うこともできるのかもしれない。だが、私としてはそのことをもって本作を難じる必要はないだろうと思う。

理由の一つは、「ふた昔前の」価値観のほうが、かえって現実に当面している部分が増えたからだ。「お金があれば幸せになれる」というほうが、不況に苦しみ、経済復興を希ういまの私たちとの距離が近い。少なくとも、未曾有の好景気の中で形成された「お金だけが幸せではない」という価値観よりは、いくらかとっつきやすい。つまり、前作のように宙に浮いたユートピア感は薄れている。

また、作品の構造が深みを増したということもある。ブルームが目指すのはざっくり言ってしまえばミルトスの資本主義化なわけだが、資本主義によってもたらされる自由な競争と格差のある社会の問題というのは、貴族や悪徳商人の態度を通して相対化されている。ブルームの活動を支える王制や貴族制も、そもそも王や貴族がいなければ発生しなかった問題ではないのかという視点が導入されている。単純すぎる対立構造に解消せず、ブルームに葛藤を生むような奥行きが設けられたことによって、現在の複雑化した社会に生きる私たちが受け入れやすい内容の作品となった。

もちろんそれだけなら、単に時代状況的な要素が作品に反映されただけの話。社会が変われば評価も変わってしまうような、頼りない内容の作品であることの裏返しにすぎない。私が今回、その辺の話に触れなかったのは、作品そのものが描こうとしているのが、そういう社会の(今回であれば資本主義の)良さではないはずだ。

傍証というわけではないが、本作にははっきりした「悪」の像が無い。最初こそ不正をはたらく貴族という「悪役」が出てくるが、彼は中盤以降基本的に人のいいオッサン。一部ルートで登場する悪党たちに関しても、存在感を発揮するのはそのイベントの間だけで、作品全体を通して彼らが「悪」の代名詞として通用するような、ラスボス的存在にはなっていない。

明確な悪や敵の存在が無い世界が描かれているということは、少なくともこの物語は、二項対立によって何かの価値を称揚するような構成をとってはいないということだ。おなじユートピア志向であるにしても、より素朴になったぶん、内容も純化されている。

物語の内部に即して見るならば、ブルームの成し遂げたことは、資本主義がどうたらとか、政治がどうたらとか、そういう話にはならない。感想の最初に述べた通り、この物語は、王への忠誠と、民への仁と、隣人への愛を貫いた英雄の軌跡である。

そのように読むことができるし、また少なくとも、そう読んでみると非常に楽しめた。暖かく楽しい気持ちになれる作品だった。


システムやグラフィックについては全く触れていないが、これはほぼ触れる必要がないと判断したため。なんといってもシステムは、エロゲー業界でも1、2を争う親切設計、安心のAXLシステム搭載でケチのつけようがない。CGも抜群のクオリティーなので、ほとんど説明できることはない。気になる人はOHPを見れば、そのままの印象なのでそちらをご覧いただければと思う。

音楽のほうも安心の出来栄え。歌は相変わらず各キャラごとにEDソングがあるなどサービス旺盛で、どれも名曲揃いだったのでかなり嬉しかった(正直、CDを特典で分散させるのは勘弁してほしい)。なお今回は、OPがKOTOKOさんになって少し驚いた(最近は茶太さんが多かったので)。『Flower!!』の楽曲自体には満足しているけれど、少々音の質が「ミルトス」という舞台に合っていないのが気になっただろうか。疾走感を否定はしないが、この作品の「顔」となる曲なので、もう少しアコースティックな音にしても良かったのかな、と。実際、民族感たっぷりな作中BGMとの差が結構激しい。

CVは、皆勤の青山ゆかり嬢を除いて、結構意外性のあるラインアップ。特に松田理沙さんがいないことに驚いた方と、「碧山もかさんて誰?」というのが気になって夜も眠れなかった人は少なくないはずだが(偏見)、終わる頃には各キャラに馴染んでいたので適役だったのではないだろうか。青山ゆかりさんがやたらかわいい演技だった(アンドロメダが予想以上に乙女だった)のは個人的に満足度高し。

キャラクター面では、今回かけあいのギャグ・コントよりも、キャラ同士が交流しあう中での心情描写に力が入っていた印象。女子会を開いてトークしたり、皆で協定をむすんでブルームを落としにかかったりと、共通ルートでは特に、ヒロイン同士の繋がりにスポットがあたっていた。

ちなみに私は、ポジション的に一番報われない感が強かったバジルが健気で気に入っているのだが……このキャラ造形で、どうして乳がデカいのか謎。というか、今回貧乳枠はゼロである。私は別に構わないけれど、つるぺたはにゃーん(CV保村真)な方にとっては大打撃だったかもしれない。

Hシーンは、マーガレット3、アンドロメダ3、カトレア4、バジル6、ジャスミン3。サブキャラルートもBADEND分岐もなく(特定の誰かを選ばないことで誰のルートにも行かないEDはあり)、共通をスキップでかっとばせば、割とラクに終わるだろう。それでも15時間以上かかったし、ボリュームも十分。注目作が大量に発売された四月の中でも、問題なくオススメできる作品である。

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