OYOYOさんの「俺と5人の嫁さんがラブラブなのは、未来からきた赤ちゃんのおかげに違いない!?」の感想

赤ちゃんのおもりをする部活だから「ベイブ(部)」という三十路のオッサンでも凍りつくようなセンスもさることながら、それよりは描写の弱さが問題。
幼い頃に両親を失いながらも、まっすぐに生きてきた主人公・光一のところにある日、雷とともにひとりの赤ちゃん(♀)があらわれる。彼女は天井に浮かんだり、周囲の人間に自分を光一の「妹」だと思い込ませたりという不思議な力を持っていた。赤ちゃんの世話に追われる毎日を送っているさなか、従妹で幼馴染の山城あかりに、あるトラブルが発生する。あかりを守り、また赤ちゃんを育てていくために、光一は五人のヒロインたちと結婚して同棲生活を始めるのだった。未来から来た(?)赤ちゃんを中心に巻き起こる、ドタバタ・ハーレム・ラブコメディ。公式のコンセプトは「家族の絆」。

Hシーンは各キャラ6~8シーン「萌えあり! 感動あり! Hありまくり!」と言うだけあって、バリバリの抜きゲーと比べると分が悪いにしても、そこそこ充実している(ただ、どうしてもほのぼのムードが漂ってしまい、あまりお世話にはならなかった)。内容は3P以上と1:1が半々くらいで、ハーレムものでイチャラブしようという方向性は明瞭。同ブランドの過去作・『めちゃ婚』の流れを汲んだ作品である。同時に、結婚へいたるまでのプロセス描写に力を入れたり、謎の「赤ちゃん」を登場させることで物語に駆動力を持たせて、シナリオにも力をいれようという気概も伺える。このあたりは、『桜ノーリプライ』の流れを汲んだと見るところだろう。実際アンケートにも同様の主旨のことが書かれていた。声優さんのチョイスも考えられていて、御苑生メイさんの赤ちゃん役が想像以上にハマり役で、素晴らしく萌える。

過去作を糧に成長の途を模索していくその前向きな姿勢と、丁寧に作られたことがわかる作品のできあがりは好感度高し。ED曲もキャラ別で用意されていて、どれもキャライメージに合っていて、かつ質が高い。ユーザーを楽しませようという意欲が伝わってきて、応援したくなる。しかし、作品の内容が面白かったかと訊かれると正直、(応援しているブランドに対して心苦しいところもあるのだが)イマイチだった。

本作については「ご都合主義」という評をよく見るが、狙いとしてはおそらく、細かい筋道よりキャラクター性を前面に押し出したかったのだろう。そしてご都合主義ながらも恋愛の過程を組み込んで来た理由としては、アクセント的に「優しさ」や「絆」というテーマをはさみこむことで、キャラの内面をよりはっきりと描きたかったのだと思う。けれど、その接続がどうにもうまくいっていない。

原因は、登場人物たちの背後に、「操り人形の糸」が見えてしまうこと。

光一をはじめ、ほとんどのキャラクターの言動がことごとく不自然で、彼らが自発的に動いた結果、できごとが発生しているのではなくて、あらかじめ決められた展開を呼び込むために、彼らが無理やり動かされているようにしか見えない。たとえば、みくる(赤ちゃん)の素性がわからないというとき、単に光一になついているからという理由で「きっと光一がパパで、この赤ちゃんは未来から来たんだよ」と結論付けるというのは、正直どうなのか。せめて一人くらい、即座に「DNA鑑定をしよう」と言う人はいないのか。また、いくら事情があるとはいえ、ことばを喋れない年齢の赤ちゃんを連れて学校へ行くというのも、あまりに非常識な選択。一応作中でそうせざるをえないようなことが言われているけれど、とても人事を尽くしたとは言えず、「こういう選択も、ああいう選択肢もあったんじゃ……」ということばかりが気にかかる。これではイチャラブっぷりを堪能する前に、頭のネジが2、3本はずれた人たちの騒ぎを見守るシュールな作品になってしまう。

もちろん、さきに述べた通り、ある程度意図的なな「ご都合主義」であることはわかる。「細かいことを気にしないで楽しみましょう」というメッセージであることも。しかし、この作品の中で起きているできごとは、吸血鬼にされた挙句五体を粉砕されたとか、宅急便で「生物」と書かれた箱に神様が詰められて送られてきたとかいう、想像を絶する様なイベントではない。非常識なできごとも含まれているとはいえ、赤ちゃんが生活に入り込んでくることで起こるトラブルというのは割と想像しやすいし、実際少し歳の離れた弟や妹で体験したり、ないしは自分の息子や娘が生まれて実際そのような立場に置かれたことがある人も少なからずいるだろう。そういう、比較的身近な話題を扱うにしては少々不用意だったように思う。

そして何より、こういう展開だと、キャラクターの内面が見えにくい。私が一番問題だと思うのはこの部分だ。

ふつう、ユーザーはキャラクターの言動から内面(心理)を読むものだが、「ストーリー展開のために」動いている操り人形からは、それが見えない。単に決まった話の流れが見えるだけだ。実際、あかりを始めとするヒロインの心情というのはどうにも具体性が薄く、型にはまった感情を語っているようにしか見えなかった。キャラの特徴は列挙できて、その意味では確かに「立っている」のに、どうも印象が薄いのもその辺りに根があるように思われる。

具体的にはたとえば、共通ルート。五人の同棲生活となれば、それぞれに求めているものや五人での共同生活を楽しむ理由も違うはず。それなのに、「五人でいる」というストーリー展開が達成されるために彼女たちは動いているから、それ以上の掘り下げが無い。とにかく「五人でもいいよ! 私は光一と一緒にいたいし! 五人でも楽しいし!」(意訳)みたいなことを言うばかり。経緯や思惑の違いから出発して、感情の違いを描くところまで到達できていたかといわれると、私はNOだと思う。そもそも、この世界は金持ちの一夫多妻が法律で推奨されているという世界。ということは、登場人物たちは結婚という部分に関してユーザーと少し違う考えを持っていてもおかしくないわけで、その部分はきちんと描く必要があった。(※一応、『めちゃ婚』とつながった設定なので、そちらをやっていれば多少見える)

個別に入ってもそれは同じだ。各キャラだいたい終盤に1つ2つの「試練」が用意されており、たとえばババ……千陽先生だとあるトラブルによって光一への想いを試されるイベントがあるのだが、このとき千陽の光一への想いというのは、彼女の教師という職へのこだわりがきちんと描かれていてはじめて、それとの比較によって浮かび上がる。それなのに、そこへ至るまでのプロセスで具体的なエピソードの積み重ねがあまりにも少ない。むしろ序盤のやる気のないHRの態度や結婚願望からは、さっさと結婚して寿退職したかったといわれたほうが説得力があるくらいだ。千陽は積極的に教職への情熱や愛情をことばにするけれど、それは何か面接の受け答えのような、具体性のないテンプレート的な力しか持ち得ていない。

あかりの「危機」にしてもそうで、彼女の切迫感や辛さを理解するには、山城家のもつ伝統や地位が具体的にわかるエピソードがほしい。しかし、従業人何万人を背負って立つ……と言われても、それがこの作品でどんな意味を持っているのかがさっぱりわからない。わかるのはせいぜい、一般的金持ち、社長令嬢が背負う(のだと思われる。社長の家に生まれたことがないので知らない)大変さであって、それは「山城あかり」の苦しみではない。

キャラクターに焦点化された構成であるにもかかわらず、ひとりのキャラにとってキーとなる情念の描写を、ストーリーに都合が良いように一般的な枠におさめて処理してしまったことが、この作品の物足りない理由だろう。唯一日向だけは、メイド喫茶へのこだわりと具体的な対応を通して、キャラクターの個性が描けていたかもしれない。

「好き」の定義にもよるのだろうが、光一と一緒にいたいということを「好き」というのなら、ヒロイン全員が光一のことが「好き」なのはわかりきっているわけで、単なる好き嫌いのレベルではあかりも千陽も差が無くなってしまう。となると、彼女たちの内面的な個性というのは、「好き」の内実――つまり、彼女たちひとりひとりがどのような望みを抱えていて、光一と一緒にいることで何をしたいのかという、具体的な部分を描くことで表現されるものではないのだろうか。イチャラブ作品としてキャラクターに焦点をあてるということは、そういうことであると私は思っている(ついでに言うなら、『めちゃ婚』は比較的その部分に成功していたと思う)。

何か特殊な言動をさせろ、と言っているわけではない。言いたかったのは、あたりまえのことでも良いので、掘り下げてほしいということ。たとえば、優月が光一と一緒にいて、一番幸福を感じるのはどんな時なのか。日向や蛍は何をしている光一が好きなのか。そういった形で、登場人物たちの感情描写をもうすこし具体的な描写を積み重ねていくことはできただろう。その先に、「このキャラしかできないような」個性的な言動が出てくるのではないだろうか。ストーリーのために彼らを動かすのではなく、彼らの動きの軌跡をストーリーとして見せる。そうすれば、キャラの魅力はもっと引き出せていたと思う。グラフィックや音楽、音声、演出といった部分は満足いくレベルだったので、次回作はその部分に期待したい。

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