OYOYOさんの「操心術∞」の感想

公式ブログを見ると、スタッフの皆さんが口を揃えて「ネタバレになるので言えない」と言っておられますが、プレイを終えた今となってはその気持ちがよく解ります。なんたって、細かい設定や事情に触れると、もはや何を言ってもネタバレに。迂闊なネタバレをすると致命的に魅力を損なうことにもなりかねないわけでして……。公式のストーリー紹介やキャッチコピーは本当によく考えられてます。スタッフの、この作品を楽しんで貰いたいという気持ちが伝わってくる。私もその気持ちを台無しにしたくはないので、致命的な部分のネタバレをさけつつ感想を進めてみます。
何年か経っても心に残っている作品というのは、単純に面白い・楽しめることに加え、その作品でなければ味わえなかったであろう特別な「何か」を持っているものだと私は思う。

『操心術∞』は、抜群のエロさとスリリングなシナリオを兼ね備えたエンターテインメントで、単純な楽しみという面では申し分ないだけでなく、独自のテーマ性を深く掘り下げていて読み応えも抜群。加えて、約8年間続いてきたシリーズの集大成という位置づけで(第一作は2004年12月発売)、歴史的にもこの作品でなければ味わえないような要素が目白押し。『操心術』の「はじまりと終わり」を描いたというのはダテではなく、本作をやり終えた後、シリーズをやりなおしたい気持ちにさせる魔力があった。シリーズファン向けという限定がつくが、文句なしの名作だ。

逆に、過去作を一本でもプレイしていて「面白くないな」と感じた人には決定的にあわないだろうから、購入検討から除外するのをお勧めしておく。

▼あらすじ
本作の主人公は、霧生伊吹と倉山鋭太の二人。

物語は女子学園生にして天才科学者・霧生伊吹の視点からスタートする。常人離れした頭脳を持った彼女は、学校にも行かず、人間の人格を操って別の人格に書き換える研究に没頭していた。そんな彼女がある時、同じく他人を操る力を使う少年・綾河樹に出会う。

それは、運命の出会いかはたまた悪魔の采配か。二人は互いに強く惹かれ、愛し合い、共同で研究を進めるようになる。理論の伊吹と応用の樹。がっちりかみ合った歯車は、とうとう完全な人格の分析と書き換えを行う人格転移装置を現実のものとした。

だが、自分の身体でその効果を確認しようとした伊吹は、実験の失敗によって樹と遠く隔てられてしまう。

一方、舞台は変わって城林学園。バカでスケベな学園一の鼻つまみ者・倉山鋭太は、転校生・才賀アレクサンドラが「催眠スプレー」で他人を意のままに操る場面を目撃する。彼はスプレーを盗みだし、学園中の美少女たちを手に入れようと暗躍しはじめるのだった。

伊吹と鋭太、どちらがメインかの判断は難しいが、一応公式のネーミングに従うならば、「本編」である鋭太の物語のバックグラウンドを伊吹の物語が流れ、最終的に二つが交錯する形となっている。

▼Hシーン
期待されていたエロ方面は相変わらず健在。「精神を犯す」という基本コンセプトゆえか、もともとテキスト主体というか、画像が無くてもエロさを発揮できるタイプのゲームだったが、シリーズを重ねるにつれてグラフィック要素が成長し、原画にYUKIRIN氏を迎えた前作・本作では「エロカワイイ」方向へ大きく進化した。シーン数74(OP・ED等含む)、CG数89枚。シリーズの中でも特に評判の高い「3」(54シーン/84枚)や「0」(88シーン/80枚)と比べても量的には遜色ない。

内容のほうは催眠を利用した疑似恋愛セックス、羞恥プレイ、意識だけ残して身体を操るなどなど、バリエーションが豊かなことに加え、抵抗や嫌悪が次第に快感に塗りつぶされ征服されていくプロセスが丁寧に描かれていて、マインドコントロール(MC)ものの醍醐味をタップリ味わえる納得の出来映え。声優さんの演技も素晴らしく、濁点がいっぱい入った文字をガンガン読み上げてくれていた。

ややクセがある部分としては、頻繁に登場するアヘ顔と失禁。あとは、先に述べた通りどちらかといえば精神的な凌辱を重んじる人向け(たとえば激しい肉体的苦痛を味わわせる感じではない)というところだろうか。テキストからにじみ出るエロさを感じられれば、きっと満足できると思う。

▼サスペンス
さて、『操心術』シリーズ(『ゴニン!?』も含む)といえば、その魅力はエロだけではなく、思わせぶりなサスペンス要素。主人公が「催眠術」を使えるようになる背景には、何か黒幕の意図らしきものが透けてみえ、途中からは獲物だと思っていた相手に狩られはじめる……という具合に、随所に散りばめられた「謎」が物語を駆動するのが特徴的だった。

本作ももちろんその伝統を引き継いでいるのだが、単体で見るとサスペンスものとしての魅力は過去シリーズに比べて低い。というのも、今回は過去全てのシリーズの「解決篇」にあたる内容となっているから。謎が謎を呼んでいたこれまでとは逆に、次々と謎が解き明かされていく様子を見ながら「ナルホド」と頷くことが多い内容となっている。そのため、過去作プレイ済みの人と未プレイの人とでは大きく印象が変わるだろう。

このシリーズは「知らないからこそ堪能できる」部分も少なくないため「1」「2」「3」「0」のどこから入っても原則問題ないのだが(個人的には「3」から入ると一番楽しめそう)、本作に限っては過去作の全てのネタバレが行われてしまうため、過去作をプレイ予定の人はプレイを控えることを強くお勧めする。

▼テーマ
もうひとつ、このシリーズに触れる上で欠かせないのは強いテーマ性。タイトルが示す通り、『操心術』が扱うのは「心」の問題だ。

ディレクターのざくそん氏は公式ブログで、「減点法でマイナスのない作り」は捨てた、と述べておられた。氏は更に続けて、「とんがっていたり、いびつに」見えるかもしれないがそれでも、「操心術はラブストーリー」であると。

私は日頃から、《作り手の公言する意図は必ずしも特権的なものではない》という立場を取っているけれど、氏が「陳腐で、下衆で、卑猥で、そしてピュアなラブストーリー」を意図して本作をディレクションしたのなら、これは相当程度成功していると言って良いだろう。『操心術』が初代からずっと目指してきたのは、まさに「真実の愛」だと私も思うからだ。

マインドコントロール(MC)をテーマにしたこのシリーズにつきまとうのは、催眠で操った相手から得た愛情も「本物」なのか、という問いである(自分の過去の感想の話で恐縮だが、このあたりは『催眠遊戯』感想で少し触れた)。いや、催眠で得た愛情というのは端的には「偽物」のはずだ。けれど、このシリーズは偽物のはずの愛情を、本物として扱う人間を主人公に据え、それと敵対する立場の人間と争わせる。

もし催眠で得た「心」が「本物」になるとすれば、どういう条件が必要なのか。もっと言えば、人の「心」にとって「本物」と「偽物」との違いはどこにあるのか――。

ややこしい話に思えるかもしれないけれど、これは別に、大げさな話ではない。誰だって、相手の気持ちが偽物でないかと疑ったり、あるいは自分の気持ちが本物なのかと自問自答したことが一度や二度はあるだろう。特に恋愛沙汰になると、「本当に好き」かどうかは、およそ殆どの人にとってとても悩ましい問題のはずだ。本作が描こうとしているのは、そんな当たり前の感情にすぎない。

▼テーマへのアプローチ
ただし、描き方は普通と随分違う。巷の恋愛ゲームが想いや行為を積み重ねる中に「本物」を見つけたり、完成させようとするのに対し、本作(を含む『操心術』シリーズ)では、全てを壊し、壊し尽くした果てに残ったものこそが「本当」だと言う。あるいはもっと過激に、全部ぶっ壊してから新しく作り直せば、それしかないんだからそれが「本物」でしょ、と言ってのける。

人によってはどん引きレベルの発言だが、この作品が凄いのは、そういう一種ぶっ飛んだようにも見える結論に、しっかりと説得力を持たせているところ。

精神性を重視していく伊吹に対して、鋭太は身体を操って精神を従わせようとし、最終的な目標も身体の側にある。だが方法が異なるものの、二人はともに「もっと深く根本的な、人間そのものの作り替え」を試みる。「愛」とは何か「心」とは何か、彼らなりの答えを用意しており、後の行動は全て、その確信に基づいて行われる。

しかしユーザーは、違和感を感じずにはいられないだろう。二人の「選択」は余りに極端で、本当に正しいのか? と積極的に疑いをかき立てるような描写が繰り返されるからだ。俯瞰的に彼らを眺めるユーザーにとっては、おそらくどちらの立場も微妙に引っかかる。催眠によって他人との距離を完全に破綻させる二人の「愛」は、ただの自己愛ではないか、という印象が強くなっていく。

両者の「愛」の行く末がどうなるか。それを言ってしまうとネタバレになるのでここで止めるが、ラストシーンで私は非常に納得させられてしまった。二つの極端な立場を徹底して描いたからこそ可能になった、見事な「オチ」だと思う。そしてまた、こういう余韻の終わり方こそが『操心術』には相応しい。

このEDはぱっと見ただけだと単なる丸投げというか、思わせぶりにしておいてユーザーの解釈に委ねただけの終わりのようにも見えるけれど、よく考えると肝心なところはきちんと押さえていて、作品が主張したい内容も見えてくる。ついでに「メビウス」というタイトルの理由も、その記号に「∞」とあてた意味もハッキリしてスッキリ。

一応説明をいれておくと(私の読みが間違っていなければ)、最後のシーン(電話の場面)にある人物の名前が出ることがよくよく考えてみるときわめて異常な事態であって、それがどういう意味をもつのかがポイントだ。

ちなみにラストというのはエンディングテーマの後に来るシーンなので、「感動の終わりダー」などと満足してPCの前から離れると非常に勿体ないことになる。一応回想登録されるので大丈夫だとは思うけれど、トイレとかを我慢してスタッフロールに突入っぱなしになった人はお気をつけあれ。

▼締めくくりとして
ストーリーの半分以上は過去作とは何の関係もない鋭太のエロ漫遊記になっているから「今作で初めて、という方にも楽しんでいただけるよう」にしたとおくとぱす氏は仰るが、どう考えても本作はシリーズファンへ向けた贈り物。これまでの作品で感じていた違和感や疑問を、ほとんど全て、綺麗に説明しきるという会心の一本だった。

もちろん細かい矛盾は幾つか残る(たとえば、「3」のトラブルは「2」の時点で完成していた技術によって防げたはずだった等々)にしても、十分満足行く終わりになっている(外伝がまだでるようだが)。

色々忘れていたところもあったので「∞」プレイ後に「3」と「0」をやり直したのだが、まあ出るわ出るわ、裏設定の嵐。

それも、最初は適当にご都合主義で決めていたのを後から強引に説明したという感じではない。全てを理解した上でCGを見直すとあるキャラが変な行動を取っていることの意味が分かったりして、綿密な設計に基づいた作品だったのだなぁと感心させられた。

おくとぱす氏とざくそん氏は、始めた当初(厳密には「2」)から練り込んだ計画をもってこのシリーズを展開されていたようで、本作をプレイしてそれは決してハッタリではないなと納得できよう。ちなみに本作のタイトルグラフィックも、見る人が見ればあの娘がどうしてああいう行動をしているか、判るようになっていて、スタッフがそういう細かい「仕掛け」にこだわっていることが伝わってくる。

丁寧に作られた=スタッフに愛された作品だったに違いない。そういう作品を味わえるのは、ユーザーとしてもやはり嬉しいことだと言いたい。

そもそも浮き沈みの激しいこの業界で、足かけ八年にも及ぶ企画が完走できたというだけでも珍しいこと。今後同じような作品に出会える可能性は相当低いかもしれないわけで、興味があれば過去シリーズの、雰囲気だけなら本作のものでも構わないので体験版などをプレイされてみてはいかがだろうか。

なおオールクリア後には、これまでのシリーズがどういう時系列だったかを示す「系譜」も表示されるようになる。それに沿って思い出しながら再プレイするのもありだろう。また、「3」や「0」から入った人は過去に遡るのも悪くない。いずれにしても過去作のファンは、本作を見逃すと本当に勿体ない。プレイすればきっと、すばらしい満足が得られると思う。

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