OYOYOさんの「あなたの事を好きと言わせて」の感想

学園のアイドルとの「恋人ごっこ」。それにやきもきするクラスメイト。気付かない鈍感主人公……。想像力を膨らませる余地がいくらでも出てきそうな魅力的なアイディアを、少し薄味に調理しすぎてしまった感じがある残念な作品。
設定はもの凄く面白そうなのに、蓋を開けてみるとどうも期待していたのと違う……というのはよくある話だが、本作もちょっとそんな感じがする。

金持ちのボンボンとして何不自由なく育てられた若宮孝介は、どんなことにでも有り余る才能を発揮する。しかしそれゆえ何にも熱中できず、携帯アプリでせっせとナマコを育てて無為に日々を送っていた。そんな折、若宮家の絶対君主である祖父・富三郎が突然来訪。男の甲斐性を身に付けるまで戻ってくるなと孝介を追放してしまう。

困った孝介は、翌日学園でクラスメイトたちに相談を持ちかける。祖父の言う「甲斐性」が恋人のことではないかという結論に至ったとき、学園のアイドル・藤倉由希乃から思いも寄らない提案が。「私と恋人ごっこ、しませんか?」――かくして二人の「おつきあい」がスタートするのだった。

エロゲー独特のトンデモ設定が目白押しなので、細かいことを気にし出すときりがない。まずは素直に設定を受け容れることからスタートしよう。

さて、互いに愛し合うまでの過程を重点的に描くか、それとも付き合いだしてからの交流に重きを置くか。恋愛ゲームは絞るポイントによってだいぶ雰囲気が変わる。「恋人ごっこ」という一風変わった設定を用意した本作はどうかというと、概ね恋人になるまでの紆余曲折のほうにスポットが当てられていた。

そうなると「偽の恋人関係」の急所は、いかに疑似恋愛を魅力的に描くかと、いかにヒロインを魅力的に描くかの二点。由希乃には偽だったはずの関係をもっと続けたいと思わせるだけの説得力が、他のヒロインには由希乃との関係を振り切ってでも一緒にいたいと思わせるだけの輝きが求められるわけだ。ところが、由希乃との疑似恋愛はどうにも淡泊だし、他のヒロインに惹かれる過程もなし崩しで、これといったきっかけが見えない。

たとえば由希乃と孝介が夕陽を見る場面。ここは故郷を出たことがない孝介と故郷を持たない由希乃とが、立場の違いを忘れて心を通わせる大変盛り上げ甲斐のあるシーンだ。ところがさらっと流してしまい、後の展開にあまり効いてこない。こういうのは勿体ないなあと思う。

すべてドラマチックなのが良いとは言わないが、何せもとが突飛な設定だけに対抗できる勢いが欲しい。そこをあえて日常の積み重ねで描くというのなら、もっと丁寧で上手なストーリーテリングが欲しかった。

また、ヒロインがやや消極的なのも気になる。

どのヒロインにもだいたい「山場」が訪れるのだが、その時彼女たちは一歩身をひいて逃げ腰になる。物解りが良すぎるというか必死さが足りないというか、孝介への想いはそんな程度なのかなと醒めかけたのは私だけだろうか(汐音はその辺良かった)。余りにストーカーじみていると引いてしまうにしても、本気だからこそのワガママさを見せてくれるくらいのほうが可愛らしく感じる。

ヒロインたちが語るのは、孝介への想いより自分の悩みが多い。そのせいで、一体ぜんたい孝介のどんなところに惚れたのかがはっきりせず、ヒロインにとって主人公がどういう風に見えているのか実感として伝わりにくい。結果、孝介は単なるスカした男のように見えてしまう。もう少しで良いのでヒロイン側の積極的なアピールがあれば分かりやすいのだが……。

あれこれ不満を述べてきたが、個々のパーツのレベルは決して低くない。キャラは立っているしCGは綺麗。CVや音楽も作風にマッチしているし、アイディアだってある。それなのに今ひとつ突き抜けきらなかったのは、これまで述べてきたような「見せ方」が原因だろう。

このままだと「あなたの事を好きと言わせて」というタイトルは、好きと言える状況を作って欲しいという他力本願な意味になってしまう。けれど(七緒が明かしてくれるように)この言葉の真意は、好きと言いたい気持ちが抑えられないという、情熱的なフレーズだったはず。「恋人ごっこ」を通した心の変化や余韻から、そのあたりをどこまで抽き出せていたか。

イベントを通してそのキャラが相手をどんな風に好きかが伝わる態度や表情を描くのではなく、好きだという言葉を直接重ねるような説明に頼ったことが、本作の足枷になってしまったように見える。そこで躓かなければ傑作の域に届いたのではないかと思うと残念は残念なのだけれど、そのあたりは次を楽しみにしたい。……と思ったら次回作の主人公は4股男。公式曰く「クズ」らしいのでどうなることやら。

なお既に指摘がある通り、シーン数には妙な偏りがある。由希乃3、七緒3、五十鈴3、汐音4に対し、ババ……清華が13シーン。一人で他のヒロイン全員と渡りあうとは婚活三十路女の執念たるや、恐れ入谷の鬼子母神。また、魅力的なサブキャラである静と和泉は残念ながら攻略不可。

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