OYOYOさんの「聖もんむす学園」の感想

スタッフの愛情が伝わってくる、プレイしていて気持ちの良いコアユーザー向け作品。
Vanadisの魔物娘シリーズ第五弾にして集大成とも言われる本作。今回の主人公(人間)・シンクは教師として人魔共存を掲げる学園に赴任。生徒や同僚の「もんむす」(モンスター娘)たちと種族の壁を超えた信頼関係を築いて行く。

本作の内容を簡単にまとめれば、シリーズファン向けにシナリオにも力を入れた抜きゲー、ということで良いと思う。その意味で間口は狭いのだが、熱意がみなぎった作品であった。

魔物擬人化というのは近年脚光を浴びてはいるものの、まだまだマイナーメジャーというか、一部コア層向けという感は否めないジャンル。実際購買層の多くはシリーズのファンだろうし、またそうしたファンを大事にする作りになっている。過去シリーズのヒロインの娘たちがサブヒロインとして多数登場したり、知っていればニヤリとできるエピソードが散りばめられているのが好例だ。過去作をやっているのといないのとでは、味わいに大きく差がでるだろう。異種族モノとしては葛藤が足りないと批判も多い、シンクのヒロインたちへの態度もまた、過去の歴史と繋がっている。彼は赴任直後、人間と魔物のギャップを目の当たりにして意気消沈したが、ファム(ゴースト)のアドバイスによって復活する。その時彼が受けた助言は端的に言えば、魔物娘も人間も変わらないということ。これは、普通に考えればやや性急に思えるだろう。種族が違う者同士が紆余曲折を経た結果導かれた実感としての思想ではなく、最初から「実は一緒なんだ」という結論ありきでスタートしているのだから、やらせと言われても仕方ない。だがシンクが「もんむす」たちとの交流を信じて疑わないのは、シリーズものの観点から外せないポイントである。

というのもこのシリーズ、世界観や時代を共有しており、既に「人間と魔物は共存できる」というメッセージを散々発信してきた。それがスタート時点で大前提に躓いていては格好がつかない。クシャミで火を噴こうが、首がとれようが、下半身が馬だろうが、羽が生えていようが、そんなのは些細なこと。会話とセックスができれば無問題。相互理解の本質は、意思疎通と性行為であると言わんばかりの大胆な割り切りこそがこのシリーズの真骨頂。そして、人間と魔物の本来的な異質さではなく共通性から出発するところに、集大成たる本作の特色がある。そのことは、文化祭を巡る騒動で姉妹校の教師の見せる態度からも明らかだろう。彼の言動が思想の問題ではなく、単なる行為の問題として扱われ解決されたということが、魔物と人間との違いがいかに表面的なものに過ぎないかを雄弁に物語っている。

そんなわけで「人間たちとかわらない異形との交流を描く」というコンセプトが徹底された本作。ヒロインたちは姿形こそ異様だが、考え方や言動は人間に近い。なるほど多くの方のご指摘通り、もんむすより普通の学園ものとして見ても本質的には違和感がないというのも頷ける。リンは病弱なお嬢様、ビビはタカビーな名家の娘、シレーネは勝ち気で努力家の委員長、コメットは本の虫、といったところか。

ただ、ならばそれこそ普通の学園もので良かったではないか。そんな声も聞こえてきそう。ヒロインたちをあえて異形として描いた意味は何か。「わたし、気になります!」というわけだ。「他者」性のような話をするなら手順も結論も逆でなければおかしいので、これは違う。ヒロインたちの問題が主に個人的な事情に収束していくことから、差別問題のような社会的メッセージを込めたかったわけでも無さそう。また、この程度で相互理解と言えるんだから楽だよね、というような皮肉も感じない……。私のように無駄に深読みしたがる人間の悪い癖で、何かあるんじゃなかろうかとあれこれ考え、無ければ無いで不満を感じたりするのだが、ここはシンプルに割り切って良いように思う。すなわち、好きだから。これに尽きる。

人間の特殊な個性を強調しているのだとか、抱えている悩みを象徴的に視覚化しているのだとか、つけようと思えば理屈は幾らでもつけられる。だがそうした説明は、本作の実質に対して無粋に思えてならない。髪がピンクのヒロインに、「どうしてピンクなの?」と訊ねるようなもので、「私、淫乱だからよ。淫乱ピンク!」と説明されても不毛なだけ。巨乳好きがいてロリコンがいて触手マニアがいるのと同じように、もんむす好きがいる。それで良いじゃないの。リンたちはまずもんむすとして生まれたのであって、何かの説明のために彼女らがもんむすになったと考えるのは、本末転倒というものだ。

こういう作品は、非常にエロゲーらしいと感じる。元来エロゲーというのは、自分の好きな性的嗜好を満たすためのものだった。金髪ツインテールが好きだとか黒髪ロングの巫女が好きだというのと同じレベルで、ラミア娘やスキュラ娘や人形娘が好きというのがあっても全然構わない。それどころか、ツンデレにせよヤンデレにせよ巫女バッシュにせよ、新しさの本質は常にそこにこそ生じるのだ。本作をプレイすれば、多くの人がそのことを実感できるだろう。「普通の学園もの」というのはだから、もんむすならではの特殊性を活かしきれていないという弱点のようでいて、私はむしろ、もんむすという属性をある意味で(これまでとは別の方向へと)掘り下げ、洗練させたのだと捉えられるように思う。

実際、たとえばクラスメイト全員ゾンビの「普通の学園もの」がどう転んでもゾンビ初心者向けの作品とはならないことは想像に難くない。それが「普通」になったと思うのは「普通でない」ゾンビものを熟知した人の感覚であって、そうでない人にはいきなり日常にゾンビが侵食してきたようにしか見えず、逆に面食らうのが関の山。同様に、もんむすをいきなり日常に持ってきても、新規参入層の獲得にどこまで繋がるかは疑問が残る。スタッフとしては裾野を拡げるつもりだったのかもしれないが、そういった思惑はともかく、できあがった作品を見てみると一般人向けに属性をデチューンしたというよりも、熟練者向けに属性の再解釈を提示しているというほうがしっくりくる。

プレイしていて心地良いのは、これでもかというこだわりが貫かれていること。たとえば種族的な特性からちょっとした仕草まで、各ヒロインは「らしさ」を十分に発揮しており、キャラクター造型の緻密さがうかがわれる。特にコメットはHシーンのプレイ(腕にアレを挿して指をしゃぶるプレイは大満足)や隠密行動など、意表を突く面白さがあって良かった。CGでは差分を大胆に動かしてキャラの魅力をいろいろな角度や表情で見せようとしているし(差分が動くと塗る手間がかなり大変らしい)、コスチュームも夏服冬服に私服のセットを用意している。展開的にワンシーズンで終わらせることもできただろうに、あえて一年間の学園生活を描ききったところに心意気を感じるというもので、この辺は見事。とあるゲーム外イベントでディレクター兼シナリオの影花氏が語ったところによれば、シリーズ当初からもんむすのフルプライス作品を出すのを念頭に構成し、娘の出演なども折り込み済みで過去四作でステップアップさせてきたそうだ。この出来映えなら、そのことばにも納得が行く。流行りに媚びて片手間に作った作品とは違い、全編もんむすに対する愛情で溢れている。そして扱う対象への愛に満ちた作品に、私は高い敬意を表したい。

もちろんここまで述べてきた内容は、作品の長所でもあり弱点でもある。歴代作品未プレイの方にすれば、本作は過程を飛ばした結論編。いささかとっつきにくいし、そもそも魔物娘があわなければ話にならない。まあ、その辺はサンプルCGと体験版でフィルタリングできるだろうから細かいことは省く。また、ストーリーは至ってベーシック……というか平凡。飾り気がないことが悪いとは言わないが、もんむすたちの派手さで高まる期待に対してややアンバランスな感は否めない。他の人間や男が殆ど出てこないせいで、シンクの主人公としての存在感がいまいち示しきれないのも痛い。これで嫌味な差別主義者の同僚でもいればメリハリがつき、ドラマとしての面白さはぐっと上がっていたのではないだろうか。

音楽などの演出面を含め、まだまだ荒削りなところは多い。だが、これからジャンルを盛り上げていこうという情熱と勢いが感じられ、いわゆる大作とは少し違う、けれどそれにひけを取らない魅力がある。シリーズものという性質と特殊なジャンルという印象ゆえに苦戦を強いられるかもしれないが、優れたところの多い良作。今後の更なる活躍に期待したい。

長文感想へのレスを書くには
 ・ユーザーIDを有している
 ・COOKIEが有効である
 ・COOKIEを有効にした状態でログインしたことがある
 ・5つ以上一言コメントを書いている
 ・長文感想を書いたユーザーが長文感想へのレスを許可している
の5つの条件を満たしている必要があります。

コメントデータ

このコメントはだいたい2407回くらい参照されています。

このコメントは2人の方に投票されています。