nezumoさんの「ゆめいろアルエット!」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

綺麗すぎるように見えて、やっぱり綺麗だったお話。権力者の繊細さとか、青春故の荒削りっぷりとか、全部ひっくるめてひとつの物語なんだなあとしみじみと感じさせられる。
「努力に勝る鍛錬はなく、記録はそれを裏切らない。決して自分の好きなものを疑っちゃいけない。」

最初に凄いどうでもいい話をすると、今作の主人公は陸上部のエース級の速さを持っているのにサボり魔なのである。
努力に勝る鍛錬はないとか言っておきながら自分はサボりまくって、そのくせ一部の√では確実に結果出してるの、最高に皮肉効いてると思う。
まあ自分自身この言葉は大好きで、後々書くけれども今作の本質をついている。
才能が全てとか、努力に加えて才能が大切だとか、そんな先天的な要素を排除して、ただひとつ「努力が全て」と言い切る。
綺麗な言葉じゃないですか。大して努力もしない人間がこんなことを語れもしないのですけど、ちょっとはやってみようかななんて気持ちにはさせられる。


プレイした感じ、今作のやりたいことは、
「夢物語なら自分の手で作ってしまえばそれは真実になる。嘘も真実になってしまえばそれは嘘にはならない。」
みたいな話なのかな。
おそらくそんな感じだと思うし、最終√で全部種明かしして今までのがなかったことになってしまうような気分にさせられる。
ペンダントの力は金の力で、全てのシナリオが金の力と言われても全くピンと来ないけど、思い返してみるとそうだったなあなんて考えることもできる。

けれども、これって本当に正しいと言えるのか。
確かに金の力は働いているし、実際にそれでもって動いてるような人も何人かはいる。
特にその首謀者(?)であるところの司なんかは、友人を騙しているような気分になっていたらしいし、柚姫さんにも相談していたらしい。

しかし本当に大切なことは、登場人物一人一人にはブレない意志があるということ。ここは都合の良い夢の世界ではない。
たとえ金の力が働いていたとして、登場人物がそれによって動かされたとして、全ての物事をコントロールできるわけじゃない。
ましてや実際に金を貰ってない人は、そう動くように誘導することは出来ても、物語の筋書き通りに動くということはほぼあり得ない。
可能性は100%に限りなく近かったとしても絶対に100%にはならない。
必ずどこかで筋書き通りにはいかない展開が出てきて、それがどんどん後を引いていくというのが普通だと思う。

つまりはたとえどこかで別の力が働いていたとして、登場人物(特に主人公)なんかは自分の意志で動いているということである。
嘘の物語は綴ってしまえばそれは本当になるとは言うけれども、それを本当に物語として完成させたのは誰だったのか。
いわばそれが主人公と愉快な仲間たちなのかもしれない。もしくは学園に通う全員、さらに言えば学園に関わる全ての人間か。
手帳で脅してくるヒロインやら何かにつけて縛ろうとするマネージャーだったり色々個性的なキャラがいる。
それぞれが何を考え、どう行動するかは完全に偶然だ。それが無限に積み重なって、学園の物語が完成する。
一人一人が主役で、一人一人が物語の紡ぎ手になる。学園の物語は必然じゃなくて、偶然の積み重なりが必然となって完成した、いわば青春の賜物となる。

金の力とか、財閥の権力が全てじゃない。最後にどうするかを決めるのは自分自身。
諦めなければ道は開き、諦めればそこで物語は終わる。
だから最後に雲雀の復活という物語を切り開けたのは、諦めないという努力が出した結果であり、こればかりは無理だと鳳凰院の全員が決めつけた因果を覆したのだ。
物語は他人に切り開いてもらうものじゃない。大切なことを分かってさえいれば、必ず最後に道は開ける。最後の最後でそういうことを教えてくれる。

ちなみに、とある人から「最終√ではとにかくヒロインに格差をつけたくなかったのではないか。タイトル画面で変わる演出や、最後のCG、誰ともHしないことを含めて」みたいな話を聞いた。
これはまさにその通りで、主人公の気持ちはチュンチュンに向いてるけれども、結局雲雀を救ったのは仲間たち全員なので、誰かを優遇するべきだとかそういうのはない。
一番見てきたのはやっぱり主人公の努力だし空回りだけれども、それを支えてくれる仲間がいたからこそ物語は完成した、みたいな。
なんだかんだで誰が欠けてもダメなんだよね。みんなが一つの目標に向かって確固たる意志を持って動くって言うのが、個人的には限りなく美しく感じる。


これを踏まえたうえで、4人分の個別について考えてみる。

まず深羽√はそもそもあの結婚自体が金の力らしいが、正直金の力であそこまで愛し合えるとは思えない。
仮に仕向けられたものだとしても、最後に愛を育んだのは主人公と深羽のそれぞれの親であり、それは筋書きの物語ではない。
ただ、深羽と愛し合う中で起こったイベントの数々、特に写真撮影なんかは、やっぱり権力が働いているのかもしれない。
それでもあれだけの笑顔を見ることが出来て、互いの気持ちを再確認できたのだから、あのイベントには働いている力以上の意味がある。

旭√は、これは裏で働いている力について考えると逆に冷めやすい。
あのタイミングでその道のエキスパートの医師が来たのがたまたまじゃなかったとしたら…
意味があるとしたら、3%という確率を限りなく100%に近づけることが出来て、作中では現に成功しているということだろうか。
事故自体は不幸なものだし、もっと夕の視点が欲しかったというか、そもそも夕√が欲しかったというか(重要)そんな気持ちにはなったけれども、
あの重い展開を必然の力で解決したことは素直に評価してもいいと思う。
奇跡なんて安っぽい言葉で片づけるなとは言っていた気もするが、それは確かにそうで、身内の祈りや努力もちゃんと結果に反映されているのかは分からないが、
それが1%でも成功確率を引き上げる要因になっていたのなら、それは偶然の積み重なりが必然を生んだとも言える。

柚姫√はちょっと難しくて、実際に学園の秘密を知っていた側の話になるわけだが、それだと何故普通に恋愛していたのかという問題になる。
まあこれに関してはあんまり思い入れがないので強くは言えないが、やはり金も権力も人の意志には敵わないということの結果に過ぎない。
もしそこにいる人をどうしようもなく好きになってしまったら、当然周りのことなど考えずに自分のために動くだろう。
柚姫はその点素直な性格なのかもしれない。√の内容は中盤は特に若干イライラしたけれども。

雀√は言うまでもないが、「権力を努力とやる気と愛の力でぶち破っていこう」みたいな勢いのあるシナリオ。
ただひたすらに雀だけを見つめ続けて、人の意志が関与しないような結婚を壊してしまおうみたいな展開になる。
金と権力で出来るのは精々政略結婚くらいだが、確かにこれは止めるのが難しい。
それでも意志の力でやってのけてしまうのは、「努力に勝る鍛錬はない」ことの表れ。
自分の好きなものを疑わないからこそ最後までやってのけることができる。
今思えばこの話がそもそもアルエットに向けての伏線だったなだとか考えなくもないですが、単体としても素晴らしい出来だった。

これは雀√の余談だが、ほんの少しだけ雲母が普通の女の子に戻って告白するシーンがある。
サブキャラながら告白するシーンがあって、しかも一瞬だけれど普通の女の子に戻ってくれて、非常に胸が苦しい気持ちになった。
こういう形で失恋させてしまうのは残念だが、この描写のひとつにしても彼女にとっての救いにはなったような気はして。
この先彼女がどう生きるのかなんかを考えだすと泣けてくるので置いといて、ある種の清々しさも感じながら雀√をプレイすることができた。


まとめると、たとえ最後の展開を知ってしまった今でも、自分はあらゆる個別の展開を受け入れることができる。
何度も繰り返し言うが、金の力で動かせるのはうわべの部分だけであり、人は誰しも最後には個人の意志をもって動く。
個別は操作された展開ではなくて、多少は操作されていたとしても、最終的には愛の力が上回る展開。
空回りするしどことなく変態だし無駄に鈍感な主人公ですが、どことなく「運命なんて受け入れねえ!」って力があるというか、そういう意味では今作の主人公に相応しい。
必然は起こそうと頑張ることは出来ても必ず起こすことはできない。
人の意志が複雑に交錯して、偶然と偶然が重なり合って初めてそれが必然へと至る。
物語は他人に紡がせるものじゃなくて、自分の手で紡いで掴み取るもの。
夢オチなどの逃げに走らずに、多少強引ながらも筋を通して現実世界でこれをやることで、個々の意志の強さを表現する。

あらゆる登場人物に心を打たれたという意味で、この作品は自分の中でかなりのお気に入りとなった。
自分の好きなものを疑っちゃいけない、ではないけれど、好きなら好きなりに掘り下げたくなるし、都合よく考えたくもなる。
考えようと思えばいくらでも外堀を埋めていけるというのも今作の面白さだと思うし、いろんな人のゆめいろアルエットの世界に触れてみたいなんてことを考えなくもない。





余談 チュンチュンについて

チュンチュンって愛称がまず最高に可愛い。
「なあ、チュンチュン」「チュンチュンゆーな!」の流れが気持ち良くて、この手のテキストを読むたびに最高の笑顔を浮かべてしまった。
ちなみに途中少しだけあった雲母が「その通りです!」って続ける流れも好きです。

ED曲「あるがままの小鳥より」は神。聞いた瞬間最高に震えた。
この曲の歌詞がまあ雀の全てというか、「権力と自分の意志の間で揺れ動く絶妙な感情」を表現していると言える。

「遥か高みの遠い空」「孤独な翼」「鳥籠のような」「自由に飛ぶこともできず」「いつも流されて」
このあたりの歌詞が、生まれながらにして持っている雀のカルマを表現していて、権力者としての見せかけの仮面を被らざるを得ないということを示してくれる。
実際雀は権力を持っているが、それ以上に他人を想いすぎるという可愛い一面もある。
自分の嫌いな人はそもそも寄せ付けない。しかし、自分の大切な人は、自分に巻き込まれて傷がつかないように、あえて遠ざけようとする。
好きな人だからこそ一緒に居たいという感情を押し殺して、どうかあなただけでも幸せに生きて欲しいというか、業を背負うのは自分だけでいいというか。
妹のためにオッドアイを隠して、自分が不幸を背負って生きていこうなんて言い出した暁には自分も鳥肌が立ったし、これもやはり雀の本心の一部ではあるのかもしれない。
雀は根っからの優しさの塊なのだろう。いくらなんでも優しすぎると言えるほど。
ちなみにあそこのCGの神々しさが今作でも1,2を争うレベルでお気に入り。雀という少女の力強さや弱さ、後悔までまとめて表現する素晴らしいCGだと思う。

しかしこれは主人公の感情と対になっているが故に、主人公は何が何でも雀を助け出そうとする。
本心を深い心の底に眠らせ、相手を想う気持ちや権力の仮面だけを前に出して生きていく。
良い子過ぎるが故に、誰かがその深い心の底から本心を引きずり出してあげなければならない。

「飾り羽を容易く折る」「閉ざされたいた扉音を立て解き放つ」「けれどそれは決意の声」「誰にも許すことはなかったあるがままの唄」
ここで雀は、ありのままの自分を知る。
今まで押し殺していた部分を前に出し、自分の感情に素直になり、権力の檻に囚われずに生きていく決意をする。
あるがままの自分を歌い、自分の羽で羽ばたいていくという比喩が本当に美しい。
あとはみんなと同じ高さまで降りてきて、同じように生きるだけ。権力者と言っても一人の人間だ。
他人の為だけに生きるのではなくて、自分の為に生きる。そういう当たり前を噛みしめる権利は当然持っている。

今作で好きなキャラは沢山いるが、一番好きなのはやっぱり雀かもしれない。
隠している繊細さだとか、心の強さも含めて、良い意味で人間の出来た素晴らしい子である。

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