amaginoboruさんの「ラブレプリカ」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

クセの強い絵にアクの強いキャラ。ハイテンションな日常に一昔前のギャグ。とかく遊び手を選びそうなドマイナーゲーの本当は、古参エロゲーマーの多くが待ち望んだ正統派の読ませるエロゲでした。2013年というシナリオゲー絶滅寸前の時代に生まれた、真正面から倫理観・人生観を問うてくる本作。婉曲な説明で読みづらい個所もありますが、エロゲ黄金期を懐かしむ方にこそプレイしていただきたいですね。
「語尾がぞなもしヒロイン」「主人公が無駄にハイテンション」「下ネタ連打」と
ギャグやキャラ付けも黄金期風味なんですけどね。うぐぅ。ハイテンションや執拗な
までのおっぱい連呼からはC†Cを想起させられました。
あの辺のノリが苦手だと序盤は結構辛いかもしれません。モテたいからと軽音部に
入部し、触ったこともなかったドラムをがんばる青春モノ。共通ルートの1章は
レガシーコメディが中心です。実は私も辛かった側だったりしますw

それでもプレイし続けたのは授業の内容が気になったからです。本作はいわゆる
現代のIF世界。GODSという病が人類の寿命を激減させ、治すには人間のクローン体で
ある「ラブレプリカ」から臓器を移植するしかない。臓器を培養するにはもちろん制約が
あって。この辺の設定が実に緻密で興味を惹かれたため、ギャグを我慢してでも読み
進めました。

エロゲ、部活、クローン体、という単語を聞いて話の筋は見えてきたかと思います。
その予想はおおよそ外れてはいないでしょう。人間が生きるためにクローンを殺しても
いいのか的なお約束を始めとして、さまざまな側面からのアプローチがなされています。
一方ジャンルにミステリーと銘打たれているように、とある事件の謎解明的な要素も
あります。ラブレプリカの謎と事件の謎。そこへ主要人物の悩みや葛藤などを乗せて
一つの物語としています。

また昨今のシナリオゲーでありがちな、作者が答えを用意し読み手は享受するだけの
作品ではありません。必要悪の問題であるからこそ一方的な答えは出さず、道のみを
提示し、読み手にも苦しみを与え、共に考えさせる。そんな読み手の積極性を求め
られる物語だからこそ、私は好感を持てたのです。

あと説教臭さが薄いのも特徴ですね。作り手の思想が混じりやすいテーマですが、
主要人物がいい意味で持論が崩れやすいんですよね。学生らしくとても脆い。主旨に
一貫性がないのです。
こう書くとダメダメにも聞こえますが、題材が題材です。答えを決めつけ断じる方が
むしろ不自然でしょう。答えを迷わせ、どちらにも理を持たせる。そして読み手にも
考えさせる。そんなディベートさせられているかのような作風が、物語に一層の
読み応えを与えています。

欠点を挙げるとすれば、説明の手順や方法はより簡略化できたと思います。特に
目についたのが、図解を用意せず文のみで伝えようとしている点。図と記号を用いれば
スッと理解できるものを文で伝えるから非常にわかり辛い。ヒロインがグルグル目に
なってましたが、プレイヤーもあんな感じになりますw

その分説明自体は丁寧なので、わかりやすいこともあるんですけどね。特に最序盤の
クチドラムやリズム体を意識した曲聴きの説明は、未演奏の方にも理解しやすかったと
思います。


シナリオ色の強いエロゲではありますが、他要素も上質のクオリティです。特に
グラフィック。特徴的ではあるもののヒロインの可愛らしさは十分出せていますし、
なによりエロシーンで実用的です。柔らかそうな肉感を重視する絵が多い中、
筋を意識した塗りと線はなかなかに貴重。特にみずほの肉質は好みでした。もちろん
やわこそうな部分はそのように描かれています。おっぱい。

他には表情差分やウエイトの使い方も上手かった。やはり秀逸な音楽と共にシナリオを
十分バックアップしています。表情は使い方次第でうっとおしくもなるものですが、
いい具合にヒロインの魅力を押し上げていました。

とまぁ総じて水準の高い作品ですが、個々がいずれも尖っているため間違いなく
読み手を選びます。キャラ・シナリオ・絵の全てがクセ強いので。ただシナリオは
マイナス部分を補えるレベルの内容ですし、何よりすべてが自分の好みにガッチリ
はまれば、至上の一本ともなる可能性を秘めています。手は出しにくいエロゲですが
できる限り多くの人にプレイしてもらいたい。そんな一本です。



以下ネタバレ交えて思ったことをつらつらと。










◆「親族の基本構造」がどうして良案なのか
初プレイでよくわからんちんだったので、備忘録として残しておきます。付け焼刃の
知識なのであってるかもわかりませんが。

「親族の基本構造」は実在する文化人類学のモデリングです。内容を端的にいうと、
未開部族の親族は女の交換によって作られている、って感じです。部族AとBがあり、
それぞれに属する女性を交換して婚姻し子を成すことで、近親相姦を避けて種を反映
させられる、という仕組み。クロード・レヴィ=ストロースという方が提唱・論文を
発表されました。
未開部族を社会性が皆無なラブレプリカ達に置き換えてモデルを適用するわけですね。

「社会性を実践することで少しでも人間のことを理解してほしい。俺と鈴で掴んだ
何かを感じてほしい」と沢人はいいます。でもそれで現状が好転するとは思えない。
相互理解を務めるよう思想誘導をを施し、ラブレプリカに子供を作らせたところで
大きな転換にはならないのでは、と思ったのですが・・・。

咲子は同ルートエピローグで「人間とラブレプリカの間に子をもうける」と明言して
います。正直「えっマジ?」ってなりました。ラブレプリカには人権を与えないことが
前提です。人とラブレプリカが家族になる。つまり、エリザベスと同じことを夫婦間
または親子間でやれ、といってるわけです。エグい。

ですがこれならお互いのことを考えないわけにはいきません。家族の命がかかっている
わけですから。またハーフを設けることでGODSを罹患しない世代が生まれるかも、という
期待もあるのかもしれません。それにレヴィ=ストロース自身もこのような考えを残して
います。

 ・贈り物交換は平和的に解決された戦争であり、戦争とは不幸にして失敗した
  商取引の帰結である。
 ・婚姻とは社会的に調整された敵対行為である。

戦国時代等における政略結婚を例にするとわかりやすいですね。男が主導権を握る
ことを前提としていますが、親族にしてしまえば異種間といえども諍いは起こりづらく
なります。0にはなりませんが。同族や親子関係でも殺しが起きるのに、いわんや
異種間をや。言い換えればラブレプリカ問題を日常事件レベルの問題に落とせる
ということでもあります。

ただ親族の基本構造は単系出自が前提。父方母方の継承がどちらも起こりうる日本の
ケースには当てはまりません。なによりラブレプリカを未開部族とするのにも強引さを
覚えます。モデルの特徴的な部分のみかいつまんでラブレプリカに適用したと考える
のが妥当でしょう。

作中ではこの後「では構造の大元とは」という話に転がりますが、集団的無意識は
ヒトゲノムに宿る的な論から大乗仏教の思想に流れるようです。私的に面白い結論と
ならなかったので書き出しはしませんが、1章で山月記モチーフの例え話が出ていたりと
あながち間違っていないのでは、と考えています。



◆愛について
様々な疑問や論題を投げかけるが説教要素は薄い。と先に述べましたが、一つだけ
はっきりと主張・明言しているものがあります。それは「愛」です。エロゲらしく様々な
場所で顔を出すこの言葉についてだけは、一つの答えを打ち出しています。

愛といわれて真っ先に思い出すのが千佳ルートです。マリアを助け、みずほを助けた
千佳のたどり着いた答えは「愛は差別すること」。倫理授業用のクローン鶏という単位の
中から、大事にしている一匹だけを差別して愛玩ペットとしての道を歩ませる。最も
愛する人から懇願されたからこそ、ラブレプリカであることを晒す危険な道を通って
臓器を摘出、他者へ移植する。その経験から得た答えでした。

鈴ルートもまた同様ですね。みずほに臓器移植した理由を詰められた鈴が絞り出した
答えは「沢人君がかわいそうだから」。愛する人がかわいそうで助けてあげたいから、
対象であるみずほにだけ臓器を提供した。他の人を救わないのは沢人に必要とされて
いないから。沢人だけ差別しているからこその行動です。


しかし差別では説明できない描写もあります。例えば鈴ルートエピローグ。結婚した後
みずほへ提案する代理母の道ですが、提案理由が愛する人のためってのはちょっと弱い。
それにみずほへの配慮としては(もともと彼女自身からの依頼とはいえ)なかなか
ふざけた話です。ではその理由とは。

いうまでもありませんが「未来」ですね。こちらは怜ルートで主に語られています。
子を生して将来への道を作ることこそ人の幸せ。いかな理由であろうとも人の未来を
摘み取ってしまうことは赦されない。生きてほしいという人としての想い。亜透父への
引導はメッセージとして読み手へと伝えています。

鈴ルートでは結果として、愛する沢人の未来を摘み取ってしまう鈴。その代替案として
同じほどに沢人を愛したみずほに白羽の矢を立てた、というわけです。愛する人の子を
目の前で作られる鈴、籍を入れられないみずほ、板挟みになる沢人と代償も相応に重い
ものですが、それでも未来を作るために選択した、と。メインヒロインEDですが、
ハッピーとは大よそ遠い場所にある終わり方です。


咲子ルートでは愛や未来を「人間性」「社会性」に置き換えて話を進めています。
人権を与えられないラブレプリカに対し、せめて生殖機能を持たせ社会性を付与したいと
する沢人。営みの中でせめて自身と鈴のような何かを見つけてほしいと。人間性に似た
ラブレプリカ性を養うわけです。おそらく葬儀も執り行わせるのでしょう。それが
新たな沢人と鈴の関係を生み出すことになるとしても。

しかし当の沢人はそれらを全てかなぐり捨てます。恋愛を捨てラブレプリカのために
生きる決意をし、鈴の葬儀も事が済むまでは行わないと発言しています。鈴の代償に
ラブレプリカ救済を掲げた結果、全てが終わった先が何もない。未来に続かない。
ゆえの女神様のお言葉なのでしょう「忘れ物ですよ。はい、人間性!」と。

また「親族の基本構造」は主論こそなり得ませんが、論中の「女の交換」は核を担う
言葉です。レヴィ=ストロースも「男と女の関係はけっして対称的ではない。男が女を
交換するのであって、その逆ではない。」としており、また本作はそれを常に実践
しています。

「社会による最も重要な交換は女によって行われる」
とは咲子の発言ですが、実際彼女も誠谷学園へ交換に出されたクチです。目的のために
売られた点は「親族の基本構造」の「女の交換」とまったくの同義です。ただし彼女は
こうも発言しています。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

沢人「すみません。俺は…………先生を、とことん利用させてもらいます」

咲子「謝罪の言葉は不要だがね。使うというのは、愛しているからこそなのだから」

沢人「愛?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

咲子だけではありません。鈴や千佳は自らの臓器を他人へと提供し、みずほは背中を
刀で切られ左手小指の神経を損傷しました。そして藍は命を差し出します。
全ては愛する人のために自分を使われ喪っています。差別をするからこそ、おおよそ
常識では渡せないものを差し出すことができる。それが本作のいう「女の交換」、
ひいては女性の愛を指します。

対して男性、つまり沢人は絶対に自らを差し出しません。交換されるのは女だからです。
咲子を誠谷学園へ送り込み、鈴や千佳の臓器をみずほへ移植させたのは沢人です。
また差別しない人からも奪い時には切り捨てます。1章や鈴ルートではみずほを。みずほ
ルートなら鈴の臓器を奪い心を切り捨てます。(エピローグ後は更に色々)
差別した人と子孫の未来を切り開くため、あらゆるものを奪い活用する。それが本作で
いうところの男性の愛です。

差別するものと一緒になり、女性は全てを男性へ差し出し、受け取った男性は全てを
使って未来への道を切り開く。そして親族を喪ったときは葬儀を行う。そのサイクルが
社会性であり、行動原理が人間性=愛。ということなのでしょう。いろいろ端折り
ましたが、そんな結論に至りました。


◆メメント・モリ
とても切ないエピローグです。亜透父に殺されるとわかっていても、あえて罠に乗る。
影士に自分の本当を分かってほしい。けどわからないままでいい。自分への慕情は全て
忘れ去られ、自分が「藍」か「鈴」かわからなくなってもいい。影士に心臓を渡せて、
生き延びてもらえれば。

ここまでして、影士が心臓を受け取り快復するのは、沢人が怜と一緒になるという
おそらく最も可能性が低いであろう未来だけです。他全ての物語では沢人は幸せに
なっても藍の心臓は使われず、影士は死に逝くのみ。なのに代わりに捨て去るのは
自らの命。それでも藍は選択するんですよね。

グランドエンドが正史なのはエロゲの不文律。ですが、本作のそれは可能性の非常に
低い、しかし藍の愛が影士に届く唯一の未来として存在しているように思えます。
もっともたどり着く可能性が低い道でのみ届く、藍の歌。それがメメント・モリの
エピローグ。アイノウタ前までは共通。しかしエピローグはごく低確率でしか発生
しない奇跡の未来なのでしょう。

――大切な人はいますか。
――大切な人を、見捨てられますか。

上記はパッケージにも書いてある本作のキャッチフレーズですが、最も体現している
のは沢人ではなく藍でしょう。大切な人=自分は間違いなく死ぬ。大切な人=相手に
覚えていてすらもらえない。目的が届くかもわからない。でも愛する人を生かすために
死ぬ。愛する人と共に死ぬのを否定して。
愛する人のために、自分を見捨てられますか?藍は見捨てることができたのですね。



蛇足1
しかし『ラブレプリカ』とは上手いタイトルを付けたものです。まず従来の意味である
人間体のクローンであるラブレプリカ。次に藍の複製体としての意。ラブレプリカ
=アイのレプリカということです。そしてラブレプリカに社会性を持たせることで
人間性=愛を教え伝播複製する、愛の複製=ラブレプリカという解釈。少なくとも3つの
意味を持たせたのは見事です。

もう一つ、オリジナルもコピーもない、私は私という自己認識の要素もあったので、
複製なんていない=0レプリカ=ラブレプリカって解釈も。さすがにこじつけすぎですかw


蛇足2
メメント・モリでの爆弾発言「藍はセカンドが告白された結果A-10死した」。
セカンドもA-10死。でもサードはみずほ・怜・千佳ルートでA-10死しないんですよね。

サードがまだ可能性があると思ってたから発動しなかった?エピローグ後に発動した?
あるいはサードが第3者?セカンドの発言も裏付けはないので、藍溺死の可能性もまだ
あります。怜シナリオを読み解いてもはっきりしないんですよね。




◆参考文献
共同体社会と人類婚姻史
http://bbs.jinruisi.net/blog/

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