OYOYOさんの「ホチキス」の感想

何かがおかしいとプレイ中思い続け、なんとかモヤモヤの原因が分かった気がします。表現と内容が、どうも噛み合っていないんです。
平凡な学園二年生、元山茂。ひょんなことから学園のアイドル・芦川ゆきのが手伝う「互助研」と関わり、クラスメイト、春日野三咲や妹分の毒舌幼馴染み、住吉奈々らと共に、ゆきのを手伝うことになる。後輩、御影しずくも加わり活気を増す互助研だったが、運営難から活動停止の宣告がくだる。「互助研が俺たちの居場所だ」。そう言って立ち上がった茂は、仲間たちと互助研再建に乗り出すのだった。

タイトル「Hotchkiss」は、「Hold me, and snatch my kiss!」を縮めたもの。もちろん、作品を象徴するキーアイテム「ホッチキス」の意味もある。覚えやすく、作品のコンセプトも伝わるなかなか味のあるネーミングだ。「縁を結んでくれませんか?」というキーワードも重なり、本作が「縁」によって結ばれる、心と場所、二つの繋がりを描こうとしていることははっきりと伝わってくる。『この青空に約束を』がつぐみ寮を舞台としたのと同様、本作は互助研という「居場所」を介して繋がっていく、茂たちの心がテーマである。

だが、残念ながら本作は、それをアピールするのに十分だったとは言い難い。原因は明快。キャラたちの考えをきちんと描けていないからだ。

茂たちは皆、「自分の居場所が無くなる」という理由で互助研を守ろうとする。皆が集まってのんびりする空間、集まるきっかけ。そういうものを「居場所」と呼んでいた。だが、ここに二つの疑問が起こる。まず、互助研は本当に存続の危機なのかということ。もう一つは、互助研という形式が必要なのかということである。

互助研を潰すと言っているのは、かすみだ。互助研は元来、部長のかすみが自称しているだけの学校非公認の活動。つまり、よくある「全国大会に行けなければ廃部だ」というノリと違い、学校や外部からの圧力は無い。そして現状、活動は不定期で、しかも閑古鳥状態。つまり、実質的な活動は殆ど無い。それでも、茂たちは満足していた。つまり、かすみが納得していないという以外、互助研にとってピンチは存在していない。

ならば、需要があって金の掛からないアイテム(少なくとも作中では売れていた)だけ残して、細々と活動すれば良い。それだけで現状維持は可能。盛んに口にされる「経営が厳しい」も解決できて一石二鳥。この作品で描かれている内容から考えれば、それで良いはずなのに、どうして互助研を潰す必要があるのか。これでは、かすみがだだをこねているようにしか見えない。

また、茂たちが互助研に求めていたのは「皆が集まるきっかけ」だ。実際彼らは互助研の活動を一切せず、屋上に集まるのが楽しい、としか言っていない。つまり極端な話、互助研が無くなったら無くなったで適当に同好会でも立ち上げて集まれば解決してしまう。ただこれでは、互助研に思い入れのあるゆきのとかすみは納得しないだろうが。

ここから明らかになるのは、作中における茂たちの行動の意味は、《互助研を潰さないため》と考えるとおかしなことが多い、ということだ。むしろ茂たちは単に、《寂れた互助研を盛り上げるため》に働いている。そのように読めば、かなりスッキリするはずだ。だが、登場人物たちは互助研が潰れる、という危機感を口にしながら奔走するため、行動が理解しにくく、常にバリバリの違和感が全編を覆うハメになった。この違和感せいで、とにかく読み進めるのに体力がいる。

ただ、どうしてこんなことになったのかは想像できる。原因は、冒頭のテーマとの絡みだ。皆が出会う場所の繋がりを描くのであれば、「つぐみ寮」のようにその場所が無くなるという仕掛けによって、登場人物たちは強烈に場所の重要性を意識する。つまり、「互助研が無くなる」という設定はテーマとの関係からどうしても必要だったのだろう。だが、肝心の内容がそこからズレてしまった。

全編に漂う大きなズレ。この問題は、作品の「説明不足」として大きくまとめることができると思う。茂たちが口にする想いや抽象的な考えが、どれも作品における具体的な行動とうまく繋がらないのだ。

たとえば、繰り返し語られる「経営が厳しい」という互助研の状況。これが、どんな実態なのかまるで分からない。幸太郎によれば、互助研は学園非公認なので支援が無く、売上が落ちたことで活動資金を稼ぐことができなくなった。だが、互助研の維持に、どんな費用がどのくらいかかるのか。少なくとも人件費や場所代は無いのだから、互助会の経費は仕入れ以外思いつかないが、商品のラインアップは定期試験の過去問集や「教師の弱み」など、仕入れが嵩むようには見えないものが多い。知らないところで高額な品があるのだろうか。それなら売れた時仕入れれば良いだけで、それまでは売れたものを再入荷すれば良いはずである。

また、売上をどの程度伸ばせば良いのかも謎。茂達の実行する打開策は「縁結びのホチキスを売って稼ぐ」ことだが、ホチキスをいくらで売るか、具体的に何個くらい売るのか、全くプランを立てない。しかも告白アイテムとしてのホチキスは何度も売れるものではないので、リピーター獲得用の起爆剤だったはずだが、いつの間にかホチキスの売上自体が目的化している。

そもそも、経営難打開の方策として、売上を伸ばすことしか頭にないのもどうか。支出を減らすのも重要だと思うのだが、そういう現実的なアイディアは一切でない。何か理由があるのだとしても、全く描かれないから想像しようがない。以上のことを象徴するのが、次に挙げる茂とかすみのやりとりだ。

 茂 「あの、やっぱりもうどうにもならないんですか?」
 かすみ 「またそれか……この前も言っただろう? 経営的に厳しくてな」
 茂 「どうにか互助研の売上を上げる事はできないんですか?」
 かすみ 「簡単に言ってくれるな……それができたら誰も苦労はしない。そんな事ができれば、世の中倒産する会社が激減するだろうよ」
 茂 「そうかもしれないですけど、このまま指をくわえて解散になるのを待つだけなんて」
 かすみ 「別にずっと指をくわえてきたわけじゃないさ……今までも色々やってきた」
 茂 「えっ?」
 かすみ 「だが、一年前から経営的に厳しくてな。正直、ここまでもったのも奇跡みたいなものなんだ」

おわかりだろうか。「どうにも」、「どうにか」という茂の問いは、具体的な内容を求めている。ユーザーもそれを期待するだろう。しかし、かすみは「経営的に厳しくてな」をくり返すだけで、何一つ具体的なことは言っていない。そして、これだけで全てを押し切ってしまうせいで、本作はキャラが語る「説明」と、彼らの実態とが結びつかない。結局、何が互助研にとって本質的な問題で、それがどの程度の規模なのか分からないから、まったく話に入り込めない。そして、下手をするとユーザーの方が効果的な打開策を思いつけてしまう。これは、ストレスが溜まる。

また、心情描写も首を傾げるものが多い。たとえば各ヒロインには、個別ルートでそれぞれ「ピンチ」や「すれ違い」が発生する。しかし、奈々と三咲のピンチは物質的に挽回可能で、深刻に受け止めている本人には申し訳ないが、危機感を感じるには弱い。すれ違いに至っては、電話一本でスピード解決。悲しげなBGMが流れはじめたと思ったら、もうお終いである。

ゆきのとしずくのピンチは比較的深刻なのだが、正直言うと半分自爆。本人の精神状態が持ち直せば良い、という結論が見えていて切迫感が無い。どうせ主人公の愛情が立ち直らせるというベタベタな展開なのだろうと予想していたら、本当にその通りで意外性も無かった。

他にもある。互助研が学校側非公認の反体制的組織なので、体制側(学校)との敵対関係が描かれるのだが、都合のいいときだけ「学校に問題視される」というフレーズが出てくるだけで、何がどう問題なのか具体性が無いため、その深刻さが伝わってこない。たとえばゆきのは、生徒会でありながら無許可の署名を行って学園側から注意される。これは相当深刻な事態として描かれ、互助研の一大転機にもなっている。だが別のイベントでは奈々としずくの水着写真を入れたティッシュを配るという、ピンクチラシ紛いの宣伝活動が許されており(学園の風紀という意味では明らかにこちらのほうが問題だろう)、いったい署名の何が問題なのか、説得力を感じない。

あと、さすがにがっくりきたのは、かすみが茂に「経営とは何か」の基本を叩き込む場面。これも引用しておこう。

 かすみ 「商品が売れなかった時の事を例に説明してやろう」
 茂 「はい」
 かすみ 「互助研が購買部で商品を売ろうとしたが、1個も売れませんでした。この場合の互助研の売上はいくらだ?」
 茂 「1個も売れてないんですよね?」
 かすみ 「そうだ、1個もだ」
 茂 「それなら0円です」
 かすみ 「その通りだ。では後者の場合、購買部が互助研から10個の商品を仕入れたが、1個も売れませんでした。この場合の互助研の売上はいくらだ?」
 茂 「……0円ですか?」
 かすみ 「違う、互助研は購買部に10個の商品を卸してるんだ。10個分の売上に決まってるだろう?」

これは、「学年主席の頭脳」の持ち主であるかすみが経営の蘊蓄を語り、その明晰さをアピールする場面だったはずなのだが、どう考えても主人公・茂の浅慮が際立つようにしかなっていない。別に難しい計算式を使えとか、ドラッガーを引けなどと言うつもりはないが、これを18歳以上のエロゲーユーザーが読んで、「おお、かすみさんってスゲェ!!」と思う場面は、到底想像できない。「小学生に授業をしている気分だ」というかすみの嫌味が、文字通りの意味になってしまっていて、何とも言えない気分になった。やろうとしていることと、実際にやれていることがここまでずれてしまうのはある意味見事。

とにかく、舞台設定や行動の理由が不鮮明で、しかもその行動が、描かれている結果をもたらすとも思えないものが多い。一般常識とずれた世界だということなら構わないが、それなら丁寧に描いて貰わないとついていけない。ズレていること自体ではなく、そのズレを説得的に説明できていないことが問題なのだ。自分の頭の中で繋がっていることが、必ずしも相手にそのまま伝わるとは限らないわけで、その部分をないがしろにすると、今回のようなことになるのだろう。私も文章を書いているとよくあることなので、じゅうぶんな戒めとしたい。

その他、気になったことを言い出せばキリがない。たとえば、しずく編の最後に明かされるエピソードは、後出しで都合のいい設定を付け加えただけ。推理小説で言えば、いままで作中に登場しなかった新キャラが実は犯人でした、というような感じで、正直どうかと思う。また、ヒロインが主人公を好きになる過程が、地道なイベントの積み重ねによって変化するというよりは、劇的なイベント一発でくるっと変わる感じなので、プロセス重視の私には少々辛かった。Hシーンは13シーンで丈も短めと物足りない。もっともさほど期待していなかったので、こんなものかという気がしないでもないが、三咲が大人っぽいダンスパーティーの衣装の下に、やたらファンシーで子どもっぽい下着を着けていたのはどうだろう。三咲のギャップと言われればまあそうかもしれないのだが、人一倍女子力(笑)の高いキャラだけに、少々気になる。

魅力的なパーツが無かったわけではない。グラフィックの質は高いし、主題歌や音楽も悪くない。テキストは特に誤字脱字も無く丁寧に書かれていて、日常会話はそれなりにノリもあって楽しい。奈々ルートで描かれる主人公の家庭のオチはなかなか爽快だし、ヒロインたちもなかなかに味がある。特に三咲は、個別ルートに入ってから異様に可愛い。「くまごろー」と言い、茂への呼び方と言い、おそるべき変貌を遂げる萌え生物。ギャップを楽しみたい方にはオススメである。

何より、ひたむきな青春を描こうという姿勢は伝わってくるので、作品自体が嫌いになるとか、不快感を感じるとか、そういうことは無い。ただそれでも、面白かったかどうかといわれれば、やはり面白くなかった。

基本点90点、戯画システム+3、演出+2、三咲+1、説明不足(ズレ)-40(テーマ面-20、細部設定面-10、心理面-10)、Hシーン-5。体験版の設定をコンバートできるのはありがたい。

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