くるくすさんの「神聖にして侵すべからず」の感想
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ゲームをクリアした人むけのレビューです。
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65点 神聖にして侵すべからず
とある下町に小さな「王国」があるらしい。特異な設定に期待を寄せてしまうのだが、サブヒロインの話ではあんまり活かされていなくて、フツーの青春物語といった様相だ。一方メインヒロインの物語は王国に焦点を絞っていて、オリジナリティを出せていた。あくまでも自身を女王だと主張する彼女が面白おかしくて、読み進めながら小馬鹿にしちゃうのだけど、プレイ後は王国の存在を好ましいものとして認めたくなった。こりゃ一本取られた。ぶっ飛んでいるようで根は真面目なハートフル・コメディ。ライターさんらしいなぁ。
(シナリオ素点の内訳は次の通りです。希編:60(点/満点100、以下同様) 、澪里編:65、操編:70、瑠波編:70)
うーん、出来は悪くないのでしょうが、名作って程でもないような……
特にサブヒロイン3名の話では「王国」の設定が(表面的には)活きていないようです。あまり王国と関係ありません。操編の終盤はどうなの? と反論されそうですが、アレは王国の問題というよりも瑠波個人の問題でしょう。
で、逆に瑠波編は王国の存続を主題に据えてきたのですが、モブキャラがやたら活躍している一方でサブヒロインたちが完全に蚊帳の外に置かれてしまいました。モブキャラも活き活きと描き出すのはこのライターさんの特徴ですが、他の編で掘り下げた彼女たちを活用しないでおくのは勿体ないといえます。
王国という設定が表面的には活きていない、と先ほど書きましたけど、むしろ本質的にはどの編においても活きています。以下では「王国」について考えてみます。
「王国」は作中で頻出する単語で、文字通りにとどまらない特別な意味を有しています。そういえば同じライターさんによる「遥かに仰ぎ、麗しの」(PULLTOP、2006)の邑那編でも登場しました。つまり外界と対比する意味合いで、彼女の縄張りあるいは世界が「王国」となぞらえられていました。本作においても同様で、「王国」とは個人が所属する世界あるいはコミュニティの比喩と解釈できます。王国、おうこく、おう・こく、王 + 国。
瑠波編の最後のスピーチにおいて、彼女が主張するファルケンスレーベン王「国」とはもちろん言葉通りの意味合いではなくて、概念的なものでしょう。つまり「絆」とか「人脈」と換言できます。人が寄り合って絆を作り、人脈を生み出します。まるで国家のように。外力に抗うべく堅く結束した臣民たちを、彼女はしかと見た上で、王国を価値あるものとして認めたのです。
ですが瑠波編で描かれた絆とは、王‐臣民 の関係からイメージされるものとは程遠くて、むしろ対等かつ相互補完的なものといえます。確かに先代女王の時分はまだファルケンスレーベン王国には勢いがあって、家名や財力をもって猫庭の臣民たちを保護していたようですが、今の瑠波にはもうそんな力はありません。瑠波は商店街の皆から何かと経済的な援助を受けていましたし、涼香の一家を救ったのは王家ではなくて臣民たちです。
彼女の認めた国家とは、「王」国というよりもむしろ「『共和』国」じゃないか? と口を挟みたくなります。女王様と称している割には無力でビンボーな彼女が滑稽で、本作を面白くしているのですが、オンボロ自転車の荷台をあくまでも「玉座」と言い張る彼女に、私はプレイ中に毎回ツッコみながらも、内心ではずっと引っかかっていました。名目上は王様なのでしょうが、王様らしくないな、と。
では何故「『王』国」なのでしょう? そういう設定だから、と片づけるのは簡単ですが、もう少し抽象的に考えを進めてみると、「王」という単語に含みがあるようです。つまり人の寄合を外部から眺めるなら大抵は共和制的なのでしょうが、構成員の各々は寄合の在り方に、常に王として責任を負わねばならない、ということです。ビンボーでも王様だと言い張らなきゃダメですよ、ってこと。
分かりやすい「王政」の例として、本作は人生の岐路で悩む少年少女を描き出し、成長物語・青春物語としてまとめています。皆さんもご自身の小学生の頃を思い返してみてください。世界は狭くて、友達といえばご近所さんが多かったはず。私たちは幼い頃は与えられた小さな王国でしか生きられませんが、成長するにつれて国境線や国民がひっきりなしに変わっていき、自身の在り方も改訂されていきます。それらの決算として、主人公たちは王権を行使し、自身の未来予想図を定めるのです。彼らの時期ほどに王として振る舞えることは少なくて、私たちは彼らを眩しそうに見つめてしまいます。いや、ひょっとするとそれは、いつしか王権を振舞いづらくなった私たちの言い訳なのかもしれませんね。
[まとめ]
「王国」の奇抜さを昇華しきれていなくて、小粒な作品にまとまってしまいました。もっとも精神的な意味合いでは「王国」はどの編にも内在しています。瑠波編で価値づけられたファルケンスレーベン王国をひな形として、他の3編ではキャラクターたちの思い描く「王国」像が具体的に扱われています。「王」と「国」を合わせて「王国」、と……上手く言えたようですのでこの辺にしておきます。
[キャラクター]
瑠波 = 操 = 希 > 澪里
うーん、出来は悪くないのでしょうが、名作って程でもないような……
特にサブヒロイン3名の話では「王国」の設定が(表面的には)活きていないようです。あまり王国と関係ありません。操編の終盤はどうなの? と反論されそうですが、アレは王国の問題というよりも瑠波個人の問題でしょう。
で、逆に瑠波編は王国の存続を主題に据えてきたのですが、モブキャラがやたら活躍している一方でサブヒロインたちが完全に蚊帳の外に置かれてしまいました。モブキャラも活き活きと描き出すのはこのライターさんの特徴ですが、他の編で掘り下げた彼女たちを活用しないでおくのは勿体ないといえます。
王国という設定が表面的には活きていない、と先ほど書きましたけど、むしろ本質的にはどの編においても活きています。以下では「王国」について考えてみます。
「王国」は作中で頻出する単語で、文字通りにとどまらない特別な意味を有しています。そういえば同じライターさんによる「遥かに仰ぎ、麗しの」(PULLTOP、2006)の邑那編でも登場しました。つまり外界と対比する意味合いで、彼女の縄張りあるいは世界が「王国」となぞらえられていました。本作においても同様で、「王国」とは個人が所属する世界あるいはコミュニティの比喩と解釈できます。王国、おうこく、おう・こく、王 + 国。
瑠波編の最後のスピーチにおいて、彼女が主張するファルケンスレーベン王「国」とはもちろん言葉通りの意味合いではなくて、概念的なものでしょう。つまり「絆」とか「人脈」と換言できます。人が寄り合って絆を作り、人脈を生み出します。まるで国家のように。外力に抗うべく堅く結束した臣民たちを、彼女はしかと見た上で、王国を価値あるものとして認めたのです。
ですが瑠波編で描かれた絆とは、王‐臣民 の関係からイメージされるものとは程遠くて、むしろ対等かつ相互補完的なものといえます。確かに先代女王の時分はまだファルケンスレーベン王国には勢いがあって、家名や財力をもって猫庭の臣民たちを保護していたようですが、今の瑠波にはもうそんな力はありません。瑠波は商店街の皆から何かと経済的な援助を受けていましたし、涼香の一家を救ったのは王家ではなくて臣民たちです。
彼女の認めた国家とは、「王」国というよりもむしろ「『共和』国」じゃないか? と口を挟みたくなります。女王様と称している割には無力でビンボーな彼女が滑稽で、本作を面白くしているのですが、オンボロ自転車の荷台をあくまでも「玉座」と言い張る彼女に、私はプレイ中に毎回ツッコみながらも、内心ではずっと引っかかっていました。名目上は王様なのでしょうが、王様らしくないな、と。
では何故「『王』国」なのでしょう? そういう設定だから、と片づけるのは簡単ですが、もう少し抽象的に考えを進めてみると、「王」という単語に含みがあるようです。つまり人の寄合を外部から眺めるなら大抵は共和制的なのでしょうが、構成員の各々は寄合の在り方に、常に王として責任を負わねばならない、ということです。ビンボーでも王様だと言い張らなきゃダメですよ、ってこと。
分かりやすい「王政」の例として、本作は人生の岐路で悩む少年少女を描き出し、成長物語・青春物語としてまとめています。皆さんもご自身の小学生の頃を思い返してみてください。世界は狭くて、友達といえばご近所さんが多かったはず。私たちは幼い頃は与えられた小さな王国でしか生きられませんが、成長するにつれて国境線や国民がひっきりなしに変わっていき、自身の在り方も改訂されていきます。それらの決算として、主人公たちは王権を行使し、自身の未来予想図を定めるのです。彼らの時期ほどに王として振る舞えることは少なくて、私たちは彼らを眩しそうに見つめてしまいます。いや、ひょっとするとそれは、いつしか王権を振舞いづらくなった私たちの言い訳なのかもしれませんね。
[まとめ]
「王国」の奇抜さを昇華しきれていなくて、小粒な作品にまとまってしまいました。もっとも精神的な意味合いでは「王国」はどの編にも内在しています。瑠波編で価値づけられたファルケンスレーベン王国をひな形として、他の3編ではキャラクターたちの思い描く「王国」像が具体的に扱われています。「王」と「国」を合わせて「王国」、と……上手く言えたようですのでこの辺にしておきます。
[キャラクター]
瑠波 = 操 = 希 > 澪里
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