armchairさんの「WHITE ALBUM2 ~closing chapter~」の感想

ネタバレ感想を見たくない場合、文字を背景色に設定することが可能です。 → 設定変更

**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

「恋愛ゲー」あるいは「ビジュアルノベル」の極北にして、最低なる傑作。一個作品として完全であるがゆえに、一個作品を決して超えられない。ただそれだけの作品。



プレイして最初に覚えた感覚は、不快感だった。「なぜ彼はこんな行動をとることができるのか」。
疑問ですらない。憤りと言い換えられるかもしれない。全く共感のできない「誠実」や「好意」の形に対する、ただただ、強い苛立ち。それだけだった。
普通だったらそこまでだ。不快なキャラのいる作品、というだけ。そこに注視しないよう、あるいはそれを非難の的にするつもりで、見下してやりながらプレイすればいい。自分の中での作品の価値を下げ続けて、鈍感なまま、結末に至ればいい。
けれど、この作品はそれを許しはしない。全てには理由があるのだと、気持ちの悪いほどの因果関係を、作中のキャラクターたちが、言葉で、行動で、証明する。「だって、彼は……」と。感情移入など到底出来ようはずもないキャラクターの内面に、理詰めで、力ずくで、プレイヤーを引きずりこむ。
痛い、頭が痛い。共感不能な価値観を、有無を言わさず叩きこまれ理解させられ揺さぶられ、否定なんてできなくて、けれど共感も全くできなくて。

そんな作業を、両の手がいくつあっても足りないほど繰り返した。長い長い物語の、最初から最後まで。不快なキャラたちの物語だから不快だったのか、物語自体が不快なのか、すでに区別できなくなって、それでも、その全てに、この作品は作品自身で応えてきた。
端的にいえば、論破、というべきなのだろうか。全ての僕の苛立ちは、全て作中で華麗に論破され、否定される。icが終わった頃には、もはやそれは予定調和であった。

作品の中に僕自身の意見や感情など介入する余地はなく、けれど否応なく僕は作品の中に引きずり込まれて、完全なものを見せつけられて、それに感動すらさせられる。
もはや、そのことすら不快でたまらない。こんな風に弄ばれる自分をどこかでだれかが嘲笑っているんじゃないかと、そんな、みじめな気分を味わわせられて、そこまでされてどうして、この作品を好きだなんて言えようか。

そして最後に残ったのは、この作品がどうしようもなく丸戸史明というライターの手の中で完成されていて、それでも、僕はどうしようもなくこの作品が嫌いなのだという、二つの事実だけだった。
それらしい批判など用を成さない。少なくとも自分に思いつくものは、全てこの作品の「素晴らしさ」を語るものにしかならないから。
だから、自分に残された道は、この作品全て受け止めた上で、全力で讃え崇めるか、作品まるごとを拒絶するか。その二つに一つだけだったのだ。



実を言うとこの作品は、自分が想像できる、夢想していた限りで、(広義の)「ビジュアルノベル」として最も理想的な作品でもあった。
表現方法としてのビジュアルノベルに必要なのは、豪奢な素材でもめまぐるしい動きでもない。その場面場面を過剰も不足もなく描写する、それぞれの素材のバランスと協力、そしてそれを統括するテキストなのだと。色々な人から影響を受けていた結果だけれど、それが自分自身の考えだった。そしてその理想が、この作品で体現された。
それ自身が読むだけで判るほど明快であけすけでありながら、さらになにかをなぞって形を削り出すようなテキスト、そしてその間をつなぐ演出、キャラクターの声、表情。それら全て決して高尚ではないが、華麗だった。
そういう意味で、この作品は自分にとって、ビジュアルノベルとしての最高峰とも言える出来だったのだ。そして逆にいえば、それを突き詰めた成果は、こんなものでしかなかった。写実的な絵画が必ずしも秀逸だとは限らないように、作者の意図全てが伝わることが決して、良いことではないのだと、思い知ることとなった。

おそらくは、「恋愛ゲー」としてもここまで徹底された作品も多くはあるまい。きっと自分自身も、昨今の作品の軽薄な恋愛表現や性愛描写に辟易としていたはずだった。愛の形なんて数えきれないほどあるはずなのに、その一つだけでも真摯に描ける作品は少ない。そんな中で、この作品は一つの究極形となった。ある恋愛たちを描ききった。けれど、その物語を通じて得られたものは何もありはしなかった。それは彼らの物語でしかなかったから。
生臭いテーマながらプレイヤーの感情のトリガーを的確に引いてくる構成や展開を組みあげる技術も兼ね備え、娯楽作品としても申し分はない。しかしその緻密すぎる作為が、プレイ中の僕を苦しめつづけたのだった。

「ビジュアルノベル」というメディアとしての上手さ、恋愛や性愛というものから目を逸らさない誠実さ、それでもまっすぐなだけでなくひねりを加えるエンターテイメントとしての上質さ。確実に、この作品は100点満点の傑作だ。否定のしようもない。

けれど、だからこそ、自分は、この作品が大嫌いだと。
自分がエロゲに、ビジュアルノベルに求めているものはこんな作品では決してないのだと。この作品そのものを拒絶するしかない。ただ「嫌いだ」という稚拙な感情だけをもって。この作品で描かれていたものを、到底受け入れられなかったから。



そんな僕の手には何も残らない。自分自身でそれを否定して、作品自身にそれを否定されたから。
自分にとっての理想の作品なんていまはまだ判りはしないが、この『WHITE ALBUM2』では絶対にない。この作品で得られたのはその知見だけだ。それだけが僥倖だ。

そして、この作品から何をも受け取れない自分が、主張することにする。
たとえこの作品自体に全てがあったとしても、この先には何もありはしないと。
この作品の方角には、これ以上のものは存在しないと、これが限界なのだと、素直にそう思うから。
だからこれから、自分はもっと別の何かを、探さないといけない。


時代がどうとかなんて、若輩者の自分には決して分かりはしない。けれどこの作品によって確実に、自分の中で、何かが終わった。
闇雲に「良い作品」を希求した時代が終わって、一つの指標が、敵が出来た。その事実だけが、僕にとっての『WHITE ALBUM2』の前向きな意義だ。
そういう意味で、この作品は確かに、自分の中でたった一つの作品となるに違いないのだろう。

長文感想へのレスを書くには
 ・ユーザーIDを有している
 ・COOKIEが有効である
 ・COOKIEを有効にした状態でログインしたことがある
 ・5つ以上一言コメントを書いている
 ・長文感想を書いたユーザーが長文感想へのレスを許可している
の5つの条件を満たしている必要があります。

コメントデータ

このコメントはだいたい6889回くらい参照されています。

このコメントは2人の方に投票されています。