amaginoboruさんの「マイくろ ~オレがワタシでボクがアタシで~」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

シナリオ重視で入れ替わり特有のエロ要素はほとんどなし。心と体の入れ替わり設定をベースとした、様々な物語を構築している作品です。説教臭い主人公、エグいテーマが題材、描写不足が目立つなどマイナス要素も散見されますが、その切り口は実に斬新。中でも百合川シナリオは様々な意味で気分の悪くなる、しかし非常に興味深い物語でした。
旧校舎でいつものメンバーとつるんでいたら、突然めまいがして体が
入れ替わっちゃった!というあるあるオープニング。エロゲなので女体を探索
したり色々むふふイベントが起きるのかと思いきや、その手のシーンはごく僅か。
TSエロを目的にした購入を検討している方は回避をオススメします。

本作の特徴は、他者の体を共有した少年少女の体験を元にして、多様に展開する物語です。
その内容はティーンエイジらしいものから、暗に人の持つ負の面を見せ付けたり、
精神的な病に触れたりと様々。ソフトタッチながらも、なかなかにエグい物語が紡がれて
います。人によっては生理的嫌悪をいだく内容も少なくありません。
萌え絵然としたグラフィックからは想像のつかない、生々しい「心の在り方」を書いた
作品です。


良かった面としては、設定を上手く用いた斬新なアプローチ方法が挙げられます。
言葉にしづらいのですが、入れ替わりを単なる心と体の交換に留めず、更に一歩
踏み込んで物語を発展させている、とでもいいましょうか。
本気で入れ替わりを用いたシナリオを作ろうとしているのが伝わってきます。

反面、アプローチに対する回答の見せ方には、色々課題があるかなと。
シナリオの見せ方は「主人公=書き手の代弁者」の説教タイプ。暗黒面に陥った
ヒロインたちを説いて救う形が大半です。しかし説明不足で説得力に欠けたり、
逆に説明が過ぎて、読み手に回答を委ねるべき箇所にまで答えてしまったりと、
バランスの悪さが見て取れます。


正直なところ「このゲームオススメなの?」といわれると、実に微妙なラインです。
真面目な入れ替わり物語を見たい方にオススメしたいところですが、説教臭さと様々な
嫌悪感を考えると、回避した方がいいかなぁ、とも。
プレイして判断して貰う他ないかもしれません。全く参考にならない答えですが。
以降に各個別パートの感想を列記しますので、ネタバレ上等で興味がある方は参考に
してみてください。





以下、個別パート感想。クリア推奨順に書いてあります。





◆凛
旧校舎の部室の取り壊しと、入れ替わり行為の中止を頑なに拒否する凛。その理由は
苛められていることによる、孤独への恐れが原因だった、という物語。
面白いのが、入れ替わり行為を繰り返す事により、相手の感情や記憶が自分のそれと
徐々に融和していく、という設定。このシナリオでは凛に引きずられた主人公・優真が
凛の感情や思考に侵食されていきます。

事実に気付いた優真が凛を諭すことで事態は解決に向かいますが、入れ替わっている
うちに、自然と相手の思考や感情に食われていた、というのは相当にホラーです。
アイデンティティの改ざんですからね。その恐怖や、推して知るべしといったところ。
しかし凛は孤立への恐怖が勝り、知らずのうちに他者の記憶を自分のモノへ、自分の
感情を他者のモノへと共有・融和してしまったわけです。

本シナリオで重要なのは、入れ替わることで上記のような行為が可能となる事。
サブヒロイン達の物語で大切なファクターとなっています。
反面、苛めと凛自身の問題に関しては、このシナリオでは全てが明らかになりません。
(現実から目を背け続けた、という意味で間違いではありませんが)



◆しばもー
統合失調症、いわゆる自閉症の彼女。その特異な応対が原因で中学時代に苛めに
あっていたこと、しばもーを庇ったことで凛が苛めの対象となったことが、この
シナリオで明らかになります。

「苛められているしばもー可哀想」と無意識にスケープゴートとする事で、自分を
守ろうとする凛。それに嫌気が差し、怒鳴りつけ拒絶するしばもー。
そりゃ頑張って生きているところに、可哀相だねー空気を撒き散らして近くに
いられたらストレス溜まりますよね。しかも本心見え見えで。
凛がとても残念な子として書かれています。この娘こんな役ばっかりです・・・。

しばもーシナリオのポイントは、メインヒロイン二人の心の闇です。彼女達が
どうして入れ替わり生活を望んでいたのかが明らかになります。



◆桃井・沢口・ノーマルエンド
この3EDはエッチシーンが変わるだけで基本路線は一緒。まとめてしまいます。
とある拍子に優真だけ入れ替わりループから抜け出してしまうルートです。
その後3人は優真に内緒で入れ替わり続けるのですが、それを知った優真が、
疎外感と3人への羨望で悩む、という展開。

テーマは日常、あるいは普通。何気ない毎日を快く思っていなかった優真が、
入れ替わりという非日常を手に入れるも、躊躇いや恐怖が勝り行為をやめてしまいます。
対して躊躇うことなく入れ替わりを続ける3人を見て、3人の強さに羨望するわけですが、
その悩みから救い出してくれたのもまた、桃井・沢口という「日常」側の人でした。

・・・という話が書きたかったのでしょうが、エッチして全てを悟るとか、さすがに
説明不足ですね。もうちょい日常パートを増やして語らないと説得力がないのでは。
ノーマルエンドがエッチ無しで話が進むので、こちらが本筋、ということでしょうか。


さて優真が3人の強さに羨望した、と作中で述べていますが、本人達も述べているとおり、
彼女達が強かったわけではありません。日常に不満はないが物足りないだけの優真と、
不満どころか嫌で仕方ない3人の差が表れただけ。そりゃ苛め続けられたり、生贄羊に
され続ける毎日なんて嫌ですよね。何とか日常を壊したいというのも頷けます。

ただ凛やしばもーについては納得できるのですが、では越中は二人のような強い
願いがあったのか?お坊ちゃま育ちでメイドさんもいて、成績優秀で人当たりもよく、
不満などなさそうなのに何故、という疑問が残りますが、その辺は他シナリオで
判明します。


そして本ルートではもうひとつ重要な事実が判明します。担任の若田部先生が、
実は過去に優真たち同様に入れ替えをしていたこと。1年以上続けた結果、4人の魂が
完全に混ざり合い、等しい4つの存在になってしまった事が語られます。
凛シナリオで優真が陥った状態の更に発展系。あのまま入れ替わり続けたらどうなって
いたか、その答えというわけです。

4人が全く同じ存在となることで全てを理解しあうのが最良、と当時の若田部先生達は
考えたのでしょう。しかし優真達は、最終的に入れ替わらない道を選びます。
その経緯については本編に譲りますが、「心の在り方」を書いた物語としては綺麗な
着地点ではないでしょうか。桃井・沢口ルートなら、日常への回帰らしいシーンも
流れますしね。

ただノーマルルートだけは、ここまで謎の少女でしかなかった、百合川真冬の
1枚CGで幕を閉じます。謎の転校生で、優真や越中に謎のスキンシップをかけ、
知った仲なのにも関わらず、最後のシーンで「誰?」と問いかけてくる彼女。
この時点まで、いかにも入れ替わりのルーツに関係しそうな雰囲気を持たせています。
上手い引きでした。



◆百合川(共通)
彼女達のシナリオは途中で分岐します。まずは共通部分から。
優真が入れ替わりループから抜け出さず、さらに百合川を巻き込むことで進行する
のがこのシナリオ。以降は5人で入れ替わりを続けることになります。

しかし他人と存在を共有できると楽しんでいた4人は、百合川に自分を演じられた
際に愕然とします。彼女の演じる自分は、自らがこうありたいと望んでいる理想の
姿だったからです。最初に入れ替わった越中は困惑し、凛は明らかな恐怖と嫌悪感を
抱き、しばもーに至っては怒りと恐怖のあまり、百合川に殴りかかってしまいます。

以後、凛としばもーは百合川に対し露骨な嫌悪感を向けるのですが、このシーンは
エロゲとしてやっちゃいけないレベルですね。何ぼ百合川の特異性を見せるとはいえ
メインヒロイン二人が完全に踏み台ですから・・・見てて書き手に嫌悪感を抱きました。

ましてや凛は自身のシナリオ、しばもーシナリオの両方で、説教垂れる聖人君主、優真の
踏み台にされているんですよね。本当に扱いの酷い、可哀想なヒロインです。
・・・憐れまれたくない、可哀想と思われたくないと願う彼女にこういうのも酷ですが。


ですが一方で、彼女達が百合川を毛嫌いするのにも納得はできます。在りたいと思う
自分を見せられる=存在を否定されたも同然ですから。お前の心は要らない、と。
しばもーが発狂して自分の体を殴りにいくシーンが、本当に説得力があります。
同時に、前述の書き手への嫌悪感とは別の、このシーン自体に対しての嫌悪感も
湧き出てきました。深く考えるとかなり気分の悪くなる内容です。


そして優真だけは百合川と入れ替えさせないんですよね。これが本当に汚い。
冒頭で述べたとおり、本作における主人公・優真は書き手の代弁者であり、常に
説教をする立場です。自己存在を否定させるわけにはいかない。
或いは自己否定できない。だから百合川と入れ替わらないんです。

巻きに入った、百合川家の事情や背景を見せたくなかった、製作時間が足りなかった
など、理由は色々考えられますが、メインヒロイン二人の汚い部分を暴露しておきながら、
自分は高みの見物とか、あまりにも酷すぎます。
冒頭では説明不足の一言で済ませましたが、この描写不足は本作にとっての致命傷。
読み手を不快な気分にしかさせない、最低の行為でした。

と様々な気持ち悪さの漂うシーンですが、越中だけは困惑はしても、露骨な動揺や
嫌悪感を見せる事はありませんでした。何か含むものすら見せます。一体彼は何を
考えているのか?公園で話していた、双子の姉の話は何だったのか?
ここで話は急転。百合川が実の父親に襲撃され、かばった越中が死亡してしまいます。
え、ここからどうやって話を繋げるの?と思ったのは私だけでしょうか。



◆百合川(越中)
通夜も済ませ、全ての事後処理が終わっても立ち直れない優真。
そこへ一本の電話。相手は百合川。公園でおちあった優真は、百合川の
しぐさを見て愕然とします。なぜなら彼女の仕草と瞳は、越中そのもの
なのだから。

ここで今まで謎だった越中の全てが明らかになります。
以下理由の説明。本編ご存知の方はすっ飛ばしてください。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

彼の悩みは凛やしばもーのような後天的なものではなく、先天的な心の問題。
双子の姉の魂が云々の真偽はさておき、彼は性同一障害者でした。
男性として十数年の間生き続け、ずっと捉えていた違和感。それが凛やしばもー
という女性体と入れ替わる事で、理由が鮮明になったのです。

だがその体はあくまで他人の物。乗っ取るわけにもいかず、他のシナリオでは
入れ替わり続ける事のみを望んでいました。終わってしまったら、望みが絶たれて
しまうから。結局は入れ替わりをやめてしまいますが、理知的で冷静な彼はそれを
受け入れ、彼の物語は密かに幕を閉じています。

しかしこのシナリオでは、入れ替わりの対象に百合川がいました。
彼女は過去の出来事から心を閉ざし続けた結果、彼女の心そのものが消滅しかけて
いました。入れ替わり時に理想な他者を演じられたのは、体に残っていた魂の残滓
を読み取り体現していただけ。さらに百合川本人は一切の感情を持たないため、
何にも縛られず、理想の彼女達を演じることができたのです。

そして百合川本人は、自分の心が消えてしまう事も気付いていました。そして自分の
代わりに体を使ってくれる人を探していたのです。入れ替わりの儀式に乱入したのは、
そういった目途があったから。

こうして越中と百合川、二人の利害が一致しました。越中が百合川の体を使うことで
女性として生きることが可能になり、百合川は自らの体を残すことができるのです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この設定にはシビれました。入れ替わり設定に性同一障害を持ち出すのは想定内。
心が死に掛けているキャラも、エロゲでは珍しい存在ではありません。
ですが、漠然と違和感ある人生を過ごさせ、入れ替わりをトリガーとして性同一障害を
発現させ、そこに心のないキャラを出して、合意での体の乗っ取りを完成させる。
入れ替わり系物語では他に類を見ない、非常にハイレベルな設定です。

伏線も見事です。凛やしばもーの「日常への嫌悪」は、自らが努力したり手を差し出せば
解決できるものですが、越中のそれは決して打破する事ができません。ゆえに諦める事が
できた。だから入れ替わりが終わることに難色は示しても、納得はしていたのか、と。
しかし百合川が現れ、不可能が可能になった。そりゃ凛のように必死になりますよね。
百合川(百合川)シナリオにおける彼の執心にも、完璧な説得力を持たせています。

一方で、百合川が入れ替わりの原因に見えるよう、他シナリオでミスリードしているのも
光ります。だから本シナリオ最初の入れ替わりで、越中が百合川になったのを見て
「あれ、入れ替わって普通に生活しちゃうの?」と違和感を覚える。全くもって見事です。


ですが以後のオチには不満があります。優真が百合川(越中)の告白を受け入れ、二人は
結ばれるのですが(Hシーンカットの選択があるのはグッジョブ。ナイスBL回避です)、
直後に彼女が意識不明→記憶喪失になってしまいます。そのまま二人が仲睦まじく
しているシーンが出て、最後に「ゆうま」と名前を呼ぶ時のイントネーションが越中の
それに代わってED、という終わり方です。

作者の主張は他者の体で生きることを否定したかったのでしょうが、物語としては
若干影を残してでも、越中として生かしたほうが面白かったなと。
全てを忘れて女性として生まれ変われた、と解釈する事もできますが、やっぱり
越中には幸せになってほしかった。せめて読み手に選択肢を残してほしかったです。
エッチしたら記憶あり、しなかったら記憶なし、みたいに。



◆百合川(百合川)
越中の想いを拒否すると、百合川の心を覚醒させるルートに入ります。優真お得意の
説教で彼女の感情を呼び起こし、体を乗っ取ろうとする越中の亡霊を振り切り、生きたいと
願わせる展開です。見所はいうまでもなく亡霊越中。鬼気迫っています。
締め方も切なさを残しつつ、ティーンエイジらしい青臭さがあっていい感じです。

ただ過程には少し不満が。優真が百合川をそこまで想う理由がないんです。
しばもーや凛なら納得もしますが、ポっと出の転校生に脈絡なく愛を注げる
わけがない。百合川を助けるために、取ってつけたような愛情を伝えているように
しか見えないんです。
越中の女性体への執着心がガチなだけに、説得力が弱く見えるのも一因かも。

百合川が優真に惹かれる理由も、より濃く書いて欲しかったですね。こちらは
理由付けに百合川(越中)とデートした記憶が残っている、というのがありますが。



◆最後に
本作は「心の在り方」に関する物語。その内容の大半は入れ替わり行為を否定し、
自己の大切さを解く内容ですが、百合川シナリオだけは異質。心を放棄した体と
体が欲しい心が合わさるのは、人として「生きている」ことになるのか?という
問いです。現実的にはまずありえない展開。しかし是とするか否とするかを
考える事には、十分な意味があるかなと。

そのアプローチ方法も他に類を見ない、見事な切り口でした。しかし惜しむらくは
嫌悪感を煽る表現方法と、主人公の聖人君主っぷり。それさえ解決されていれば、
隠れた名作として一押しできたのですが・・・何とも勿体ない、しかし捨て置くにも
勿体ない。それが本作への評価です。



蛇足
「生徒を実験観察するなんて教師失格だ(意訳)」と嘆く若田部先生ですが、
凛の苛め問題を看過できなかった方がよっぽど問題だと思いますw

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