komaichiさんの「きっと、澄みわたる朝色よりも、」の感想

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ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

物語を包む溢れんばかりの優しさと、現実を取り巻く滲み出んばかりのユーザーへの不誠実さのコントラストは見事。それはまるですみ渡る朝色のように鮮やかで思わず涙がでそうになる…(2009年7月30日若干加筆)
内容の解釈は後にして、今回はプレー直後の雑感を述べます。

多くの方が述べられているように、大多数の方の期待には答えない
作品でしょう。
個人的には満足しましたが、極めて偏った特殊な好みに
よるところが大きいように思います。

宣伝の仕方は完全に間違っています。
 あのHPを見て、一人しか攻略できないという判断はまず無理。
またシーンイメージがエロシーン100%だと理解することも
不可能。
こうした特殊な点は明記すべきだったでしょう。
 シナリオのテンポを保つためにと考えることも難しい。
エロがあっても全く不自然でない場面はいくつもありました。
 しかもみんな魅力的に描かれているのがタチが悪い。
メインはもとより、何気に青姉などのサブも良かったのに…

最大限肯定的にとらえると、本作でのエロはサービスとしてシーンを
提供するというよりも、作品の雰囲気づくりの一貫として位置づけていた
と考えることが可能かも。
実際、エロ中もギャグが入ったり、主人公が違和感に気付いたりと
純粋エロ以外の要素が混ざっていました。
自分には無理な考え方ですが…

これはブランドとしての信頼を大幅に下げる以外何にも貢献しないと思います。
メーカーの信頼と引き換えに何を得ようとしたのでしょうね。

物語自体にも結構人を選ぶ要素が散見しています。

まず文章表現の仕方がとても独特。
あまり小説読まないのですが、その中で似た雰囲気を持つのは、
雑学描写は京極夏彦、謎解き部分は西尾維新という印象でした。
ご存じの方は結構いると思いますが、どちらの方もかなり癖があります。
言い回しで拒絶反応を起こす人もいそうです。

また極端に伏線や謎を張ることにこだわり過ぎて、作品の本来の魅力を
削いでいる感があります。
具体的には、謎も伏線も細かく分割してある割に、露骨に分かるように
表現されています。
なので序盤は文章を読んでいると気になる点がありまくりで
文章を読むのに苦労し、後半になるまでには、小出しにされるせいでネタが
結構先読みできてしまう。
結果、主人公の方がプレーヤーよりも理解していない状況が発生します。
基本的に、謎や伏線は量より質だと思います。一つの事柄を、ある程度
まとまって明らかにされた方が眼から鱗が落ちるような感覚を味わえるというもの。
物語の構成では後半で、散らばった謎・伏線回収を後半一気に回収しますが、
面白み半減です。
もちろん予想を超える事実なども明らかになり面白い部分もありましたが、
主人公が理解するまでプレーヤーが付き合わなければならないのは
謎解き要素としてはレベルが低いと言わざるを得ません。
作品の構成から判断するに、ミステリー部分は、四君子たちの絆に次いで
魅せたい部分だったと考えられるのですが、結果的に作品の足を引っ張った
印象が強いです。

さらに、作品の中での「芸術」の表現の仕方もおかしい。
設定上、みな芸術家を志す意識の高い人間のはずなのですが、
美意識も語らなければ、作品に対する描写もしょぼい、芸術に対する感性も
一般人並み、その割に異常なほどに協調性がある点など違和感ありすぎでした。
ここばかり強調しても意味がありませんが、ある程度は読み手を
納得させてくれないと、登場人物たちの芸術に対する姿勢や想いに説得力を
持たせることができないでしょう。
実際に、みな普通の美術部の学生程度にしか見えませんでしたし、芸術の登竜門
とされている作品の舞台自体がひどく薄いもののように感じました。


と散々書き殴ってしまいましたが、ただ一点、強烈に評価できる点があります。


それは、物語の中心である四君子たちの優しさです。


この点に関しては素晴らしいとしか言いようがない。
この4人の描写は非常に緻密です。
集団の中の役割は4人全員が、気持の面での相関関係は
(当初は)主人公以外の3人が最初から認識を共有したうえで会話が
行われるのでかなり複雑かつ多彩な表現ができています。
お互いが相手を思いやっているからこそ、噛み合わなくなる
会話などは上手い。
会話をすればするほど、絆の強さが理解できて愛着がわきます。
それに物語が進むにつれて明らかになる事実や、主人公の認識の変化
などが加わるとさらに魅力的に。
そしてどんな時でも相手への思いやりは一貫して感じることができます。
それは、ふざけていても、シリアスでも、なんの変哲もない普通に会話でも
全く無差別。言葉、心理描写、態度、行動あらゆる面から理解できます。
どのような展開でもここの部分だけは全くブレません。
見方によっては、このせいでエロが犠牲になったとも考えられる点では、
愚直なまでに徹底していると言っていいかもしれません。
主人公の鈍感さには正直頭にくることがありますが、きちんと愛情を理解できない
特殊な事情が説明されます(共感はできません、納得ができるくらいでしょうか)。
そして一度気がつけば仲間の事に関してだけは同じ過ちを犯しません。
中盤以降は鈍感さはかなり改善されます。
そして最後は全員ハッピーエンドを迎えます。
皆の思いやりが作品の世界を救います。

こうした作中に溢れる誠実さは心打つものがありました。

渦巻くメーカーや作品へのドス黒い不信の嵐の中で燦然と光輝いていますね。
まさに掃き溜めに鶴。
現実にこれだけ不誠実なことをしておいて、作品には一貫して人々の優しさが
あふれているあたりかなり皮肉。
ブラックジョークとしてはレベルが高いでしょう。

ただ、この四君子の描写で気になったのは、どのキャラも過去と現在を
結ぶ長い時間があまりに空白に感じる、四人の過去の思い出と現在の想いが
あまりにつながりすぎているといっても良いでしょう。
それだけ幼少の頃の出来事がその後の人生を大きく変えたといえばそうなのかも
知れませんが、ちょっと普通の感覚からはかけ離れている気がします。
過去と再開の間の物語で言う空白の時間は、四人にとって何の影響も与えない
環境だったというのはピンと来ないものがあります。
所詮多感な子供の頃の思い出の一つ、それがずっとその後の行動を決定するほど
強い影響力をもったというのはある意味非常に恵まれていないと感じるかも。
その間を想像力で補えるような書かれ方はされていない印象でした。
フィクションとはいえ、この点は四君子の絆の強さ以上に、不自然さを
感じるかもしれません。

とはいえ、4人のやり取りが織りなすやさしい雰囲気は自分の中では
エロシーンの少なさや作品の多少の粗程度の事なら帳消しにしてもおつりがくる
程素敵でした。
ほんとミステリー要素をもっと簡素化して、4人のやり取りを増やしまくって
欲しかったですね。
ですがこれは明らかに一般的とは言えない評価の仕方。
作品をもっと多角的にみた場合は遥に低い評価がつくでしょう。
そうあるべき作品です。
というわけでお勧めはあまりできません。
ルートや攻略数の他に、優しい雰囲気に大きな加重配点が可能な
方のみお勧めできます。

作中のひよの言葉、
「他人への想いを大切にしよう、触れ合いを大事にしよう、そう心がける人がたくさんいる世界は、やはり自然と素敵な世界になると思います」

何気ない会話の一言で、作中でも振り返られるとのない台詞ですが、
この言葉が作品のエッセンスを端的に表していると思います。
この言葉に強く共感ができて、これさえあれば大概の事に目をつむれる人は
この作品を結果的に高く評価できるのではないかと。
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komaichiさんの「きっと、澄みわたる朝色よりも、」の感想へのレス

朝色はまだ未プレイなのですが、戯画から発売されたパルフェの名言「お前の周りの世界は...お前が考えるよりも...ちょっとだけ優しいんだよ」を思い出しました。
2009年07月27日15時25分26秒
レスありがとうございます。

ご指摘は的を得ています。

非常に不幸な誤解を生む可能性が高いと思ったのでレビューでは書くことを
控えましたが、本作の思いやりや優しさは丸戸作品(どちらかというと『パルフェ』
より『この青空に約束を_』だったのですが)に通じるものがあると感じました。

相手への思いやりが作品全体に一貫しているという点では共通していると
言っていいと‘個人的には’思います。

ただそれを表現するやり方は全然違います。
そして多分この作品の方が人を選ぶと思います。

一番感じたのは、場面ごとの解釈の自由度の違いです。
本作は、パルフェまたは多くの丸戸作品と違って、想像力の入り込む余地が
少ないです。
丸戸作品って結構読み手の想像力で補うことのできる描写が多いと思います。
例えば、嫉妬を表したかったら、相手の心情をそのまま描写するのでなく、
口紅で相合傘を書くとか、もうそもそも「・・・」だけで済ませてしまう場面など
結構ある。
こういった場面って、一言で嫉妬と表しても、実は十人十色の解釈をする余地が
あると思います。

しかしこの作品は頻繁に主人公の心理描写やサブキャラのつっこみなどが実質、
解説の役割を果たしている場合が多く、読み手の自由な解釈は制限されると思います。

加えて、メインの4人の出会い、その時に感じた思い、主人公のどこに惹かれたのか、
逆に主人公はみんなの事をどう思っていたのかなども詳細に描写されます。
従ってなおさら、現在の言葉・態度の意味は固定されがちになると思います。

これはある意味ではとても親切・丁寧に描写してくれていると捉えることが可能で、
もう好みの問題でしょう。

ただ書き手が提供する解釈(本作では優しさ)が納得できない可能性は高くなります。
設定が現実離れしているので、そんな非日常に置かれた場合の気持ちは
個人個人の想像力で補うしかないわけですが、それが作品から与えられる解釈と
いつも一致するわけではないでしょう。
そうした場合は思いやり優しさが作り出す雰囲気に乗れないということはあるかも
しれません。

そのかわり、ばっちりはまればこれは破壊力抜群間違いなし。
複雑な思いを「緻密にかつ正確に」描ききったという評価も可能だと思います。

こうした事は丁寧な描写をする作品の持つ宿命のようなものかもしれません。

ちなみに細かく場面ごとの意味や一貫性などは考えきれていませんが、
大雑把な印象では思いやりの一貫性には致命的な粗はないように思います。
それくらいの完成度は期待していい作品だと思います。

個人的には感情の機微は緻密すぎて完全に同意できる人は少ないだろうという
印象でした。
自分は優しい話が大好きなんで優しいのであれば多少の不都合は目をつむっても
いいと考えているので全然何の問題もありませんでした。
というか後から冷静に解釈しなすまでは無意識で目をつむっていましたことに
気がついたという感じでしょうか。
自分だけの特殊な思いやり補正です。

長々と書いてしまいましたが、要するに

優しい雰囲気を感じることができるかどうかに関しては、本作の方がパルフェよりも
博打的な要素が多く含まれているという印象だったと言いたかっただけです。

分かりにくかったり、k-pさんから頂いたコメントの意図にそぐわない
ようでしたらすみません。
2009年07月28日14時50分48秒

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